Dribs and Drabs

The author hereby agrees to cover each and every topic that caught his attention.

柯隆「習近平政権下の中国経済」,『証券アナリストジャーナル』52(2),pp.56-66

抜粋
  • 2013年6月と8月に中国に出張し,景気は経済統計より悪くなっていると実感した。その根拠として,広州から深圳までの間で見かけたコンテナトラックの数が1,2年前に比べて激減している。数%という減り方ではなく何分の1という感じである。広州−深圳高速道路は中国の国際貿易の大動脈であり,コンテナトラックの激減は実体経済が著しく減速していることを意味する。
  • アベノミクスに倣ってか,中国ではリコノミクスという言葉が出ていているが,李克強首相の政策目標ははっきりしない。アジェンダ,ロードマップも出ておらず,何をリコノミクスと称しているのか,よく分からない。
  • 鄧小平は神ではなかったが,まるで神であるかのように人々から崇められた。強烈なカリスマ性のある指導者だった。それ以降は江沢民胡錦濤習近平と徐々に普通の人になった。
  • かつての共産党プロレタリアートの政治政党だったが,現在はイデオロギーで束ねられている政党ではなくなった。江沢民胡錦濤習近平の3人は『共産党宣言』や『資本論』を読んでいないだろうし,習近平が『毛沢東語録』を読んでいるとは到底思えない。2011年末現在,8,200万人以上の共産党員がいるが,彼らの多くは,共産党員になれば幹部になり易く,幹部になれば権益(benefit)を得られる,という理由で党員になっているのである。
  • 2012年9月に大規模な反日デモが起きたが,これは愛国教育のせいではない。中国社会の不安と不満が乗数効果で蓄積され,ちょっとしたことで火がつきやすいという性格を持ってしまっている。
  • いつかどこかの時点で「中国の特色ある社会主義」を実質的に外さなくてはいけないのではないかと私は考えている。なぜなら,絶対的な権力を持っているところは必ず腐敗するからである。
  • 現在の中国は改革をしなければ革命が起きるという瀬戸際に追い詰められている。
  • インドには身分制度があり,4つのカーストの外(最下層)にアウト・カーストが約2億人いると言われている。中国は社会主義国家なので身分制度はないはずだが,分けてみるとインドと同じ5層になる。
  • 中国社会がこれから安定するかどうかについては,二つの鍵がある。一つは,都市部住民のうち,どれくらいの人が中間層として台頭してくるか。中間部が台頭しない国は安定しない。もう一つは,農村部住民がどれくらいボトムアップされるか。ボトムアップされなければ必ずと言っていいほど農民一揆(革命)が起きる。
  • 過去2000年の中国の歴史を振り返ると,社会構造は全く変わっておらず,何十年,何百年ごとに下克上が起こるという循環も変わっていない。下から上へ富を巻き上げるスピードは速いが,上から下への富の再配分は遅いため,富は上に蓄積する。
  • 中国国家統計局が公表しているジニ係数は0。475だが,これはかなり美化された数字だろう。
  • 最近,IMFOECD世界銀行も中国に関する統計は全て甘くなっていると感じるが,いずれの国際機関も資金不足で,中国からお金を取りたいという思惑があり,バラ色の数字を見せるようにしていると聞いている。
  • ローエンドの産業を温存しながらハイエンドの誘致をする。中国は未だに地方政府が一つの国のように保護経済をしている。保護主義という考え方があるが故に,産業構造の転換が遅れている。
  • 中国では本土で大量の石炭を燃やしているが,脱硫,粉塵などの処理が杜撰である。オリンピックを前に,鉄鋼など一部の工場を沿岸部に移転させたが,旧市街では暖房や炊事にも石炭が使われている。
  • オリンピックの時には,北京市内を走行できる車をナンバーで規制し,ある程度の効果が期待された。しかし車を買うのは富裕層であり,富裕層にとって車は足である。ナンバー規制をしても1台買い足すだけではないかと私は見ていた。実際,2008年の北京ナンバーの車は300万台だったが,2012年末には600万台を突破している。
  • 多くの中国企業はあまりイノベーションに関心がない。応用的,臨床的な研究はするが,ファンダメンタルな研究開発(基礎研究)をしない。(。。。)中国が熱心でないのは,知的財産権が十分に保護されていないからである。日本企業は中国企業知的財産権を侵害されていると言うが,実は中国自身が最大の不利益を被っていることに中国は気が付いてない。
  • 現在,中国に進出している日本企業は約25,000社だが,その約3分の1が赤字である。
  • 赤字経営とは言え,閉鎖するのも難しい。創立者がまだ生きているからである。今でも日本の大企業は70〜80代の名誉顧問,相談役を多く抱えている。現在の経営陣は,先代の社長が創った会社を潰すことができない。これは日本企業の体質の問題である。
  • 日本では「失われた20年」と言われるが,何が失われたのか,と尋ねると,答えられない日本人は意外に多い。日本企業が,特に中国のような新興国において,最も失ったものはブランド力だと私は思う。
  • 日本企業は応用編の研究開発はするが,デザインに関する研究はしない。製造の現場に行くとエンジニアしかいない。エンジニアは性能(function)を作るが,デザイナーは色や形,最終的にはvalueを創る。
  • 1980年代の中国では(。。。)女性が結婚相手に求める3種の神器は三菱の冷蔵庫,ナショナルの洗濯機,ソニーのカラーテレビだった。
  • 今後,日本企業は中国のアセットをリアロケーションする必要がある。中国に残すもの,東南アジアにシフトするものを選別し,最適化を図らなければならない。
  • 靖国参拝の問題や歴史認識の問題は,ある種の面子の問題で,時間が経てば薄れていく。しかし今回は領土・領海の問題なので妥協しにくく,解決しにくい。
  • 極論を言えば,所有権を決めるのは国力の問題である。現在,日中間でそれが決まらないのは,世界第2位と世界第3位の経済大国で,戦うわけにはいかないからである。
  • 日本が中国から尖閣諸島を,韓国から竹島を,ロシアから北方領土を守る,あるいは取り戻すために考えることはただ一つ,国力を如何に強化するかである。