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ランダムな読書歴に成り果てた

石井隆『最後のリスク引受人:知られざる再保険』保険毎日新聞社

この本を手にしたわけ

私の仕事に直接関わる,再保険のお話でございます。読まないわけにはいきません。

最後のリスク引受人―知られざる再保険

最後のリスク引受人―知られざる再保険

 
抜粋
  • 地震リスクを担保する財物保険は,一般住宅にかけられている家計地震保険と企業などが購入する企業地震保険に分けられる。家計地震保険は政府と保険会社が共同で責任を負担しており,1回の地震について最大5兆5,000億円の支払いが行われる仕組みとなっている。
  • リスクを引受けることを事業とする保険会社とはいえ,全ての保険引受責任に対する支払能力を自己資本や責任準備金のみで手当てしていくことは難しく,合理的でもない。そこで保険会社は引受責任に対して保険を購入し,正味責任を自己資本と責任準備金で合理的に賄える水準にコントロールしていく。このように保険会社が購入する保険を「再保険」と言う。
  • 余り目立たない再保険だが,実際には日本の保険市場は再保険と大きな係わりを持っており,再保険は日本の保険産業,さらには日本経済に対して重要な役割を担っている。
  • ロイズは英国の議会制定法により法人化された団体であり,ロンドンのシティーにある。現在(2009年12月時点)84のシンジケートとシンジケートの資金と組織を管理する51のマネージング・エイジェント,そして世界中からビジネスを持ち込む大小合わせて200近いロイズの指定ブローカーによって構成されている。
  • ミュンヘン再保険会社(ドイツ),スイス再保険会社(スイス),ハノーバー再保険会社(ドイツ),ウォーレン・バフェットが率いるバークシャー・ハサウェイ・グループ(米国)は正味再保険料収入でロイズを上回り,市場規模でもドイツ,米国,バミューダはロイズを中心とする英国を上回る。
  • ロンドンのシティーは現在でも再保険市場として最も賑やかな場所であるが,それはロイズの存在もさることながら,再保険ビジネスにおいて重要な役割を果たしているブローカーの大部分がロンドンに業務の拠点(必ずしも本店登記地ではない)を置いており,再保険市場の動向を肌で感じ取るには今日でも大変都合のよい場所である。
  • 保険会社経営の立場から再保険を一言で説明するとすれば,「再保険は,保険会社の経営の安定と成長のために事業リスクの一定部分を移転する手段であり,資本手当と並んで重要な手段である」ということになる。
  • 保険会社は,資本増強を行う代わりに再保険を購入することにより,担保力の拡充を図るとともに,保険会社の抱えるリスク量を軽減させることができる。
  • 「正味事業成績の安定」,「保険引受キャパシティーの拡充」,「資本力の補完」という三つの主要目的に加えて,保険会社は再保険会社およびビジネスの仲介役である再保険ブローカー(…)に対して様々な付加価値サービスを求めている。
  • 保険料ベースで世界の再保険市場は元受保険市場の4%程度である。
  • 高度に専門的な再保険ビジネスにおいて,専門家集団のブローカーは非常に大きな役割を果たしている。
  • ブローカーの業務は,(…)保険会社の保険引受リスク,自然災害リスクなどの集積リスクの分析,財務体力の分析を踏まえた適切なリスクの保有水準・再保険戦略についての提言,海外の再保険事業などの情報提供,コンサルティング業務などの付加価値サービスの提供などに大きな力が注がれている。
  • 日本の損害保険会社が2009年度に国際再保険市場から再保険を購入するために支払われた再保険料の合計額は3,275億円(日本損害保険協会調べ)で,これに共済団体が購入した再保険約350億円(主要共済の公表資料に基づき推計)を加えると総額3,625億円となる。(…)同年の日本の共済を含めた損害保険市場の保険料が約10兆円であることを考えると再保険料の元受保険料に対する割合はそれほど高くない。
  • 日本で損害保険の再保険を行うとする場合,「ソルベンシー・マージン基準を満たすために必要な高額な持込資本」,「規制的な保険会計制度」と「高い法人税率」は大きな障壁となっている。
  • 地震の再現期間200年はVaRの計算に当てはめると99%T-VaRにほぼ相当する基準と考えられる。
  • ファイナイト再保険の場合は,債権と債務が基本的に1対1の関係になるため,再保険料の払込みとロスの支払いの時間的ズレ(タイミング・リスク)が発生するとしても,保険リスクの移転はないものと解釈され,保険契約とは見做されない場合がある。
  • 英国政府はこうしたファイナイト再保険について,保険リスクそのものの移転がなくてもタイミング・リスクがあると見做される場合には所得控除に比較的柔軟な対応をとっている。一方,米国のルール(FASB: Financial Accounting Standards Board)は厳格であり,保険リスクの一定規模の移転があることを控除の要件としている。
  • (ILSで)トリガーを実損填補からインデックスに変更した場合,その費用は保険商品に対する掛け金とは見なされないため経費計上ができない。そのため税制上のデメリットが発生してしまう。
  • 自然災害リスクを抱えた企業が保険を購入せずにキャット・ボンドを購入するケースもある。
  • オリエンタルランドは,保険会社や再保険会社を介さずに投資銀行と契約関係を結び直接キャット・ボンドを購入している。一方,JR東日本再保険会社との間で地震デリバティブ契約を締結し,その地震リスクがSPCを介してキャット・ボンドに転換されている。
  • 静岡県静岡市に拠点を置く巴川製作所(本社:東京)は,2004年11月に東海地震を想定し,地震発生時に最大40億円の復旧資金の融資を受けるためにコンティンジェット・デットを設定した例がある。
  • 毎年9月上旬タックス・ヘイブン市場として知られているモナコ公国モンテカルロで,欧州の再保険会社やブローカーを中心に再保険会議が催される。
  • OECDの他にも国際通貨基金IMF),金融安定化フォーラム(FSF),金融活動作業部会(FATF)などがタックス・ヘイブン市場のリストを作成している。
  • バミューダにキャプティブ保険市場が形成される切掛けとなったのは,1980年代半ばの米国の保険危機である。(…)大手元受保険ブローカーのマーシュ・アンド・マクレナンは,キャプティブのマネジメント業務をタックス・ヘイブンバミューダで開始し,それにライバル・ブローカーや保険会社が追随して次々にバミューダに資本を投下し,保険と再保険の業務遂行に必要なインフラ整備が短期間の内に行われた。
  • 多くの場合キャプティブ保険会社の運営は,保険ブローカーなどによって設立されたマネジメント会社に業務の相当部分が委託される。
  • キャプティブ再保険会社の運営は,マネジメント会社に全面的に,あるいは相当部分が委託されるので経費面でも合理的である。
  • 現時点において日本にキャプティブ保険市場を創設する展望は開けていない。
  • 「変動性は変動する … "Volatility is volatile"」は,2003年にノーベル経済学賞を受賞したロバート・エンゲルの有名な言葉である
  • 保険や再保険が取扱う「不確実性リスク」は,保険期間において損害事故の発生が不確実であること,発生するとしてもその時期や損害の程度(大きさ)の予測が難しく不確実なことを言う。
  • 米国損保会社の保険事業のC/Rが20%程度の幅で変動しているのに対して,再保険会社のC/Rはその倍の40%を超える幅で変動している。
  • 再保険料は,再保険損害金に相当する期待値(ロスの見込額),事故の発生時期の不確実性および一定の予測値を超える事故発生のボラティリティ―に対して再保険会社が必要とするリターン,リスク引受けに要する資本コスト,リトロ購入に要する費用,再保険会社の諸経費などを賄うように算出される。
  • キャット・モデルは,地震や風水災害などについて,ある地点,地域においてどのような規模の災害がどのような頻度で発生するかを科学的に予測するために開発されたモデルであり,自然災害に対する再保険料率を算出する上での拠り所になっている。
  • ロイズや幾つかの再保険会社は,アスベスト被害の保険適用に関する司法判断について,再保険の引受時点では想定されてなかった判断であり,再保険事業の継続を危うくする問題であるとして何度もアピールを行った
  • オーストラリアでは保険会社が最保険を購入する場合,再保険により責任準備金の積立が免除される金額を,再保険会社の信用格付けによって異なった係数を掛けて計算することで,実質的に優良格付けの再保険会社を優遇する制度を敷いている。
  • 一般論として,市場追随モデルの方に重心が傾いている再保険会社は,その分大きな経営リスクを有していると考えてよいだろう。一方で,料率規範モデルに大きく比重を置くことは,取引の継続性を重視するマーケットにおいては非常に採り難い戦略である。

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