Dribs and Drabs

ランダムな読書歴に成り果てた

近藤康史『分解するイギリス:民主主義モデルの漂流』筑摩書房(ちくま新書)

2年3ヶ月間のイギリス滞在中に,スコットランド独立とEU離脱とふたつのレファレンダムを目の当たりにすると,否が応でもイギリスの政治あるいはそのシステムに興味を持たざるをえなかったわけで,改めてこんな本を手に取ってみました。

分解するイギリス: 民主主義モデルの漂流 (ちくま新書 1262)

分解するイギリス: 民主主義モデルの漂流 (ちくま新書 1262)

 
内容(「BOOK」データベースより)

かつて世界で「民主主義のモデル」として賞讃されたイギリス政治。だがそれはいまや機能不全に陥り、ブレグジット(Brexit)=EU離脱という事態へと立ち至った。イギリスがこのように「分解」への道をひた走っている真の原因はいったいどこにあるのか。安定→合意→対立→分解へと進んできた現代イギリス政治の流れを俯瞰し、すでにモデルたり得なくなった英国政治の現状をつぶさに考察。混迷をきわめる現代政治のシステムと民主主義モデルの、今後あるべき姿を問いなおす。

著者が言うには,イギリスの政治はもっとも安定していたし,それというのも「議会主権」「小選挙区制」「二大政党制」「政党の一体性」「執政有意」「単一国家」という6つの要素が相互補完的に存在していたからである,しかし今は各要素がそれぞれに変質し,制度としてほころびがでてきている,ゆえに,かつては「民主主義のモデル」と目されていたイギリスの政治システムは,現在でこそそこから「学ぶ」ことはあれども,もはや「モデル」とはなりえない,ということです。

ノエル・ギャラガーBrexitについて,

「毎晩テレビに政治家が出演してはこれがいかにイギリスの運命を永遠に変えてしまうかもしれないファッキン重要な決断だってあーだこーだいってるんだけど、俺としてはだったらおまえら政治家がファッキン国の運営と決断をするっていう金をもらってるだけの仕事をなんでしっかりやれないんだよっていいたいよ」

「なんで国民なんかに決めさせようとするんだよ? 国民なんてのは99パーセントが豚のうんこくらい頭悪いんだぜ」

https://rockinon.com/news/detail/144807

なんて語っていたのも,それはその通りなんだけど,一方でこの本の文脈でいえば「議会主権のほころび」であると同時に,「二大政党制では拾いきれない民意への配慮」,それがいくつかのイギリスで行なわれたレファレンダムである,ということです。

そういえば,

小選挙区制」は「二大政党制」を推進するもの,ということで,それはその通りなんですが,じゃあ「二大政党制」の何がいいかというと,常に政権交代の可能性をはらんでいる(いた)から,政党には競争原理が働くし,アカウンタビリティも発生する,ということなんですね。アカウンタビリティって日本語だと「説明責任」と約されたりしますが,たぶんちょっとずれていて,もしかしたら「ブーメラン」に近いのかも。たとえば「自衛隊違憲だ」っていう主張を,政権与党になってもできますか?という。なので,「小選挙区制は民意を反映していない」という批判もあったりしますが,それ合ってなくて,逆に民意を誇張するかたちで(投票率議席数が比例しない)結果がでるからこそ,政治の安定性にもつながるし,同時に政権交代の可能性も高まる,と。これは目からウロコでした。

ただそれが,純粋な小選挙区制ならいいんですが,日本のように比例代表との並立制になると,制度が「汚れる」と。そうなると,今の日本みたいに「一強多弱」みたいになりうるし,政権交代の可能性は下がるし,となると野党も非現実的な主張をするようになるし……,と。いいことないですね。

ということで,イギリス政治についての本ではあったのですが,一般的に政治システムについても考えるきっかけとなりまして,いい本でした。参考文献がいっぱい載っているのも好感が持てますし,「古き良き新書」という感じがします。

あとがきにありましたが,

ちくま新書が刊行されたとき,著者は大学4年生だったらしい……,そういえば確か僕も大学生のときにちくま新書が出た記憶があるなぁと思ってみたら,著者は僕の3歳年上でした。