Dribs and Drabs

ランダムな読書歴に成り果てた

高坂正堯『国際政治:恐怖と希望』中央公論社(中公新書)

ここ(最近の読書を通じて思ったこと|主に「反権力の権力化」ついて - Dribs and Drabs)で書いた『外交感覚』の高坂正堯が,国際政治に関する自らの考えを「改めて」「一般的に」考えてまとめたのが,この『国際政治』であります。

ということで,他の高坂正堯の著作を読むときにこの『国際政治』がひとつの参照点になりうるのかな,と思いつつ,「一般的」であるがゆえのもどかしさ,というのも,読みながら感じてしまうのである。「概念的にものを考えることに慣れていない」と高坂が述べているのは多分に謙遜であろうけれど,『外交感覚』の鋭さ,時流を捉えていながらも普遍的な何かを感じさせるあの文章で高坂を知った僕にとっては,少しもどかしさを感じてしまう…。

高坂正堯という人はほんと時流の捉え方,描き方が上手いなと思ったのは序章のこんな出だしで,

昭和十四年(一九三九)八月の末,独ソ不可侵条約の締結の報に接した平沼(騏一郎)内閣は,「複雑怪奇」という有名な言葉を残した退陣した。〔中略〕少し誇張して言えば,この「複雑怪奇」という一語に,戦前の日本外交の失敗は現れている。なぜなら,国際政治が複雑怪奇であるのは当然のことにすぎない。それは,特に驚くに値するものではないし。まして内閣の辞職の理由になるものではとうていない。〔改行〕しかし,当時の日本人のほとんどすべては,国際政治の「複雑怪奇」に当惑し,なすところを知らなかったのである。

といった感じで始め,筆を進め,展開し,「序章」を序章たらしめている。この筆致は実に鮮やかだなと思うのです。