個人的な思い出
大学生のときはぜんぜん真面目に数学を勉強していませんでしたが,数学の本は好きでした。「全集」になると,なおさら好きです。読みもしない本を買っては,お金に困ると古本屋に売って……いうのを何度も繰り返していました。苦学生気取りでいましたが,同級生に「そんなん苦学生ちゃうわ」と言われていたのを思い出します。
高校の修学旅行で京都に行ったとき,京大近くの古本屋「吉岡書店」で1冊の本を買いました。それが小平邦彦の『解析入門』で,まだ「選書」として1冊の本にまとめられる前の,岩波講座「基礎数学」シリーズの1冊。小平の『解析入門』は5分冊で,そのうちの第1分冊だけ買ったように記憶しています。受験勉強の合間に読んでいましたが,この本は「デデキント切断」で実数を定義するところから入っているもので,最初に読んだときは「大学の数学はこれほども高校までの数学とは違うのか!」と驚きました。
現代数学の基礎を感覚的にわかりやすく解説することを目標に編集された岩波講座「基礎数学」.本選書は,この中から,学部程度の学習内容に相当するものを選んで,新たに問題の解答・ヒントを付し,編集しなおした.
http://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/00/1/007801+.html
そんなこともあり,その「基礎数学」の一部を編集しなおした「岩波基礎数学選書」は,数ある数学シリーズ本の中でいちばん愛着があります。ブツとしてであれば選書より分冊の基礎数学のときの方がさらに愛着があったというか,コレクター魂がさらにくすぐられていたのですが,選書でも分冊でも変わらないのは,本文の組版の美しさ。今の基準からすれば文字の大きさは小さ目で,内容に真剣に向き合うことが求められているような,緊張感があります。のちに岩波書店が新たな数学シリーズとして「現代数学への入門」を発表したとき,その組版の美しさが失われて落胆しました。
そういえば,この基礎数学選書は函入りなのですが,学生時代は本を買うたびに「頻繁に読むから函なんてジャマなだけだ!」と大見得切っては函を捨て,結局読まずに上記のように吉岡書店に売りに行き,店の親父から「函ってのは本にとって服みたいなもんなんだよ。娘を嫁に出すとき,裸で嫁には出さないだろ?」などと言われ,安い値段でしか買ってもらえませんでした。
監修と編集
監修:小平邦彦
編集:岩堀長慶,河田敬義,藤田宏,小松彦三郎,田村一郎,服部晶夫,飯高茂
全巻の構成
- 線型空間・アフィン幾何 (伊原信一郎,河田敬義)
- ジョルダン標準形・テンソル代数 (杉浦光夫,横沼健雄)
- 2次形式 (田坂隆士)
- 群論 (近藤武)
- 環と加群 (山崎圭次郎)
- 体とガロア理論 (藤崎源二郎)
- ホモロジー代数 (河田敬義)
- 集合と位相 (彌永昌吉,彌永健一)
- 解析入門 (小平邦彦)
- 現代解析入門 (藤田宏,吉田耕作)
- 複素解析 (小平邦彦)
- 関数解析 (藤田宏,黒田成俊,伊藤清三)
- 確率論 (伊藤清)
- 多様体論 (志賀浩二)
- 位相幾何学 (服部晶夫)
- 微分幾何学 (佐々木重夫)
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小平邦彦『解析入門』は,さらに「軽装版」として新たなバージョンが生まれました。中身は変わっていなく,ハードカバーの1冊がソフトカバーの2分冊に変わっただけですが,何の感慨も抱かせない表紙を見ると,中身まで軽装になったのではないかと思ってしまい,残念です。