Dribs and Drabs

ランダムな読書歴に成り果てた

ニコラス・レマン『マイケル・ジェンセンとアメリカ中産階級の解体:エージェンシー理論の光と影』日経BP

なんだろう,邦題(の不適切さ)が気になるのと,最終章「利益者集団による多元主義」に大事なことが書かれていそうなのに,そこに至るまでに読み疲れて最終章の内容が頭に入ってこない。

で,邦題。原題は『Transaction Man: Traders, Disrupters, and the Dismantling of Middle-Class America』で,マイケル・ジェンセンなんてどこにも出てない。

図書館サイトの内容紹介いわく

金融の時代からネットワーク資本主義へと向かうアメリカ社会の変容を活写。マイケル・ジェンセンをはじめとする、時代を象徴する3人の学者・事業家とそのアイデアからアメリカ資本主義の変質を描いたノンフィクション。

ということで,「時代を象徴する3人の学者・事業家とそのアイデアからアメリカ資本主義の変質を描いた」というのはその通りだとしても,「マイケル・ジェンセンをはじめとする」っていうのには違和感しかない。その3人というのは,フランクリン・ルーズベルトのブレーンだったアドルフ・バーリ,金融分野において重要な金融理論や金融技術を構築したマイケル・ジェンセン,そしてLinkedInの創設者リード・ホフマン。

本書の軸は「Institute Man(組織人間)から Transition Man(取引人間)への変遷,そして Network Man(ネットワーク人間)への移行」あるいは「企業から金融(組織から取引)」で,まぁ確かに現代も「Transaction Man」がメインだし,それを象徴するのが(本書的には)「マイケル・ジェンセン」ではあるんだけど,どうもなぁ。いや,それでいうと,原題にも「Dismantling of Middle-Class America」あるんだけど,本書内でそれを定量的に深堀りした感が弱いんだよね。シカゴのGMディーラーの話は活写されているんだけど,それをもって「中産階級の解体」の象徴としているの?

終章の冒頭には「良き社会を作るために,いかに経済を組織化するか。多くの偉大な思想がこのテーマに取り組んできた。本書はそうした一連の抗争に対してさまざまな考察を行ってきた」と書かれている。うーむ,そうなのか。まぁだからこそ著者は「多元主義」というのを持ち出したんだろうけど,本書全体の記述がクロノロジカルすぎて,上記のように,ここに至るまでに脳が疲れている。内容が頭に入ってこない。

本書の中盤以降,校正がザルになっていくんだけど,たとえば,

  • p.298。「大統領としての1年目に,クリントが行った」ってあるけど,「クリントン」でしょ。
  • p.318。会話の引用の最初,グリーンスパンのところの書体が本文と同じまま(引用部分の書体になっていない)。
  • p.330。「エドワード・グラムリッチだ。彼は経済学者で。FRBの理事の1人だった。」→「経済学者で,」。

335.253

マイケル・ジェンセンとアメリカ中産階級の解体 : エージェンシー理論の光と影 (日経BP): 2021|書誌詳細|国立国会図書館サーチ