Dribs and Drabs

ランダムな読書歴に成り果てた

E.P.サンダース『パウロ』教文館(コンパクト評伝シリーズ)

岩波新書の『パウロ:十字架の使徒』を読んでいたおかげで,この本に何が書かれているかは分かるようになったが,それでもこの本が何を言いたいのかは分からなかった(内容が専門的で)。

著者E.P.サンダースは,「初期ユダヤ教の研究のみならずパウロ研究の分野でも世界的に著名な学者」。あとがきによると,

ユダヤ教を律法主義の宗教と決めつけながらそのアンチテーゼとしてパウロを解釈する「伝統的」手法の誤りを明らかにした点で,サンダースの著書はパウロ研究史上決定的な転換点の役割を果たした

らしい。

まぁまたいつか,他のパウロ本を読んだ上でこの本にたどりつくことがあれば……。

それにしても,第10章「使徒の行い」で,パウロの同性愛に関する態度を解説する箇所があるんだけど,「ギリシア・ローマ世界における同性愛は広く知られているわけではないので」と著者は断りを入れて,けっこう詳細に説明してる。ここが面白い。

例えば古典期のアテネでは,少年や青年は,彼を知恵と勇気へ導こうと望む成年男子から名誉ある求愛を受けるべきだと考えられていたが,性行為は挿入に至らない太腿の行為のみで終わることが望ましいとされていたとか,さらに少年には,肉体的な快楽を自ら楽しむべきではないというタブーが課されていたとか,一般的な見解によれば,成年男子が性行為の受動的な役割を務めることは恥ずべきこととされていて,しかしユリウス・カエサルは受動的な役割をしたとして嘲られ,「あらゆる女の夫であり,あらゆる男の妻である」とクリオ*1に皮肉られたとか。

原本は Oxford University Press の「Past Masters」シリーズの1冊として刊行された。

192.8

パウロ (教文館): 1994|書誌詳細|国立国会図書館サーチ