Dribs and Drabs

ランダムな読書歴に成り果てた

マット・リドレー『人類とイノベーション:世界は「自由」と「失敗」で進化する』ニューズピックス

本書の要旨としては,イノベーションっていうと「すごい人がなんかドカンとアイデアを生みだした」みたいに思われがちだけど,そうじゃくて,自由な環境の中でいろんな人が少しずつ失敗して成功して苦労した結果としてできるものなんだ,ということと,あと発明とイノベーションとの違いについては,

イノベーションとは,エネルギーを利用してありえないものをつくり,つくられたものが広まるのを確かめるための,新たな方法を見つけることを意味する。それは「発明」よりはるかに大きな意味を持つ。なぜならイノベーションという言葉には,使う価値があるほど実用的で,手ごろな価格で,信頼できて,どこにでもあるおかげで,その発明が定着するところまで発展させるという含みがあるからだ。

とおっしゃってる。

そんなイノベーションの具体的な事例や歴史を紹介していくわけだけど,本書は構成が面白くて,クロニクルに語るんじゃなくてカテゴリーごとに語っていく。第1章は「エネルギーのイノベーション」,第2章が「公衆衛生のイノベーション」。「先史時代のイノベーション」は第7章にようやく登場する。エネルギーから始まるのが独特で不思議だなと思ったんだけど,第1章の終わりにちゃんとこんなことが書かれていた。

エネルギーそのものはテーマとして選び出されるに値する。イノベーションは変化であり,変化に必要という理由だけでも,エネルギーはすべてのイノベーションの根っこである。

第3章「輸送のイノベーション」,旅客機がどんどん安全になってきているのは過去の失敗から学んでいるからだという話は興味深くて,

現代の航空業界は,文字どおり試行錯誤によって驚異的な安全記録を達成している。その手法は,外科手術,海底油田,ガス爆発のような,生活のほかの分野で手本とされている。

と締めくくられているんだけど,欲をいうならこれらをもうちょい深堀りしてほしかった。

原発について著者は「もうイノベーションは起こらない,斜陽産業だ」と断定し,その理由として原発では「やってみて学習する」ことが不可能だし,「建設前に設計を通さなくてはならない規制が膨大にあるため,建設途中で設計を変更することも不可能」,なので「このやり方ではどんなテクノロジーであれ,コストを下げて性能を上げることはできない」と述べている。

まぁカテゴリーは変化すれど同じような話が続くので,途中で飽きる。そして著者の主張は第8章「イノベーションの本質」,しかもその各項のタイトルに要約されていて,つまり

  • イノベーションはゆるやかな連続プロセス
  • イノベーションはセレンディピティであることが多い
  • イノベーションとは「アイデアの生殖(セックス)」である
  • イノベーションには試行錯誤が不可欠
  • イノベーションは「協力」と「共有」を必要とする
  • 「同時発明」はめずらしくない
  • グーグル創業者が車に轢かれても検索エンジンは登場していた

ということになる……。

この本が残念なのは,表記がユルかったり誤字があったりすることで(さすが新興の出版社!といいたくなる),例えば

しかも1度に何時間も移動するのが当たり前になった。(p.99)

って,これは「1度」じゃなくて「一度」とすべき。あるいは,

ヨーロッパ最大手の格安航空ラインエアーを率いるマイケル・オライリー(p.133)

って,これは「ライアンエアー(Ryanair)」で「マイケル・オリアリー(Michael O’Leary)」でしょ。

336.17

人類とイノベーション : 世界は「自由」と「失敗」で進化する (ニューズピックス): 2021|書誌詳細|国立国会図書館サーチ