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藤沢晃治『「分かりやすい説明」の技術:最強のプレゼンテーション15のルール』講談社(ブルーバックス)

同じ著者による『「分かりやすい表現」の技術』の方が「不特定多数の人に正しく意図を伝える表現の技術」だったとすれば,この『「分かりやすい説明」の技術』は「話すことで目の前にいる人々を説得する「説明の技術」に焦点を当て」ている。

しかしよくも臆面もなく「分かりやすい説明」についての本を著せるなぁという印象で――「そういうお前の説明は本当に分かりやすいのか?」と突っ込まれること間違いないので――,有益だったのが1割,どうでもいいのが9割といったところ。

有益だと思ったのは,話者と聴者とのあいだには理解のタイムラグがあるという話で,著者はこれを,「映画館に先に入っているあながが,遅れて入ってきた友人を席に案内している状態」にたとえている。つまり,先に入っているあなたは暗闇に目が慣れているけれど,友人の方はそうではないので歩くのもおぼつかない状態であると。

一方,本書で疑念を抱かされた箇所のはいくつかあった。たとえば第1章「『分かる』とはどういうことか」の中,脳が情報を処理するメカニズムのようなものを「脳内関所の作業項目」と題して説明しているけれど *1,「…行われていると考えられます」と述べているだけで,参考文献を示していないので,これでは実際にそういう学説があるのか,著者が以降の説明の便宜のためにでっちあげたのかがわからない。

また,「ビジネスレターのポイント」として挙げた3点の1点目,「読み手の時間を奪わないこと」の説明の中で,「『時間を奪わない』とは,〔中略〕すなわち,『分かりやすい説明』をしなさい,ということに他なりません。」とあるけれど,「分かりやすい説明」とは何かを説明する中で「分かりやすい説明をせよ」とは,苦笑するしかない。

最後にまた著者は,「分かりやすい説明」のチェックポイントとして,以下の15項目を「ルール」として挙げている:

  1. タイムラグの存在を知れ。
  2. タイムラグを短縮せよ。(概要を先に与える)
  3. 間を置きながら,しみ入るように話せ。(小休止を取りながら話す)
  4. 具体性と抽象性のバランスを取れ。
  5. 説明もれに気づけ。(第三者に事前チェックしてもらう)
  6. 情報構造を浮かび上がらせよ。(重複,ムダを整理;大項目,小項目の関係を明示する)
  7. キーワードを使え。
  8. 論理的な主張をせよ。
  9. 聞き手が知っている事例にたとえよ。(格言,ことわざを普段から仕入れる)
  10. 聞き手の注意を操作せよ。(「問いかけ」や「まとめ言葉」など)
  11. 聞き手を引率せよ。(聞き手に展望を与える)
  12. 繰り返しの劣化に注意せよ。(話者は慣れているが聴者は初めて聞く)
  13. 持ち時間を守れ。
  14. 聞き手に合う説明をせよ。(聞き手の持っている前提知識に合わせる)
  15. 聞き手を逃すな。(聞き手の不快感を解消する)

言っている内容はまっとうだが,その内容を理解するために括弧書きで補足する必要があるのが,この著者の説明力に疑問を抱くポイントのひとつなのだ。

809.2

「分かりやすい説明」の技術 : 最強のプレゼンテーション15のルール (講談社): 2002|書誌詳細|国立国会図書館サーチ

*1:ちなみに,1)情報の大きさをチェックし,受け入れるか否かを決める。2)たくさんある脳内整理棚の中から適切な一個を選ぶ。3)情報のムダを省き整理する。4)情報が論理的であるかチェックする。5)情報を入れる脳内整理棚内の最終一区画を決定する。