想定していたことだが,野球がここまで進化していた――データ分析の観点から――ことがよく分かった。
これまでの野球データ分析は,統計的な手法を用いて選手の能力やその価値を評価し,今後起こるプレーを予測するものだった。近年メジャーリーグでは,テクノロジーの導入によって試合中のボールの軌道データ(トラッキングデータ)が入手可能になり,プレーの結果だけでなく,その原因に直接アプローチできるようになった。
たとえば打球について:
- 「バレル」。これは「打球速度と打球角度の組み合わせで構成されるゾーンのこと」で,「ゾーンに入った打球は必ず打率5割,超打率1.5000以上となる」。バレルになるには「打球速度が最低158キロ必要で,その際には打球角度26~30度の範囲が該当する」が,その角度は打球速度が速くなるほど広がり,「187キロに到達すると,8~50度の角度がバレルとなる」。
- 純粋に飛距離を最大化するインパクトの条件は,「19度上向きの軌道(アッパースイング)でボールの中心から0.6cm下側をインパクトする」こと。
- 除脂肪体重とバットスイング速度には正の相関がある。つまり筋量の多い打者はスイング速度が速くなりやすい。
- 158km/hの打球速度を出すには128km/hのスイング速度が必要。そのためには65kgの除脂肪体重が必要で,それは体脂肪率を15%とすると75kgの体重となる。
- 長打率がもっとも高い打球角度のレンジは20~29度(2018年メジャーリーグ;打球速度140km/h以上)。
投球においても,球種ごとの縦横の変化量が数値化されており,それによって著名なピッチャーの特徴づけているのが印象的だ。
冒頭でオリックス・バッファローズの吉田正尚のインタビューがあり,これが面白い。身長173センチと小柄な吉田だが,プロ入りから4年連続で2桁本塁打を記録。小さいころから「遠くへ飛ばす」ことを意識つづけてきたのは「シンプルに,楽しいから」と言い切り,そのためにいちばん大事なのは「強く振る」のではなく「強くコンタクトする」ことだという。データ分析については「『感覚とデータのすりあわせ』が依然よりも容易にできるようになった」と感じている。子供を指導する人たちに対しては「野球が持つ『楽しさ』をまず伝えて」と訴えている。
本書は参考文献/引用元も掲載されており,れっきとした科学の本になっている。
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