Dribs and Drabs

ランダムな読書歴に成り果てた

石黒圭『段落論:日本語の「わかりやすさ」の決め手』光文社(光文社新書)

「段落論」ときくと「トピック・センテンス」*1のようなものを容易に想像する。実際に本書はトピック・センテンス――あるいはそれに象徴される欧米風のコンポジション(作文技術)――に触れているけれど,本書のカバレッジはそれよりも広い。時にプラクティカルで,時にアカデミックな話が展開される。

著者は「文章を書くことは『引っ越し』に似ている」という。文章を書くとき,書き手の頭の中にある無数の「文」を「段落」という箱に整理して入れ,順々に運び出すことが大切であり,そうすることで読み手にも効率的・効果的に情報が伝わるというのが,その心だ。

英語的「パラグラフ」と日本語的「段落」について,著者はこう述べている。「英語の『パラグラフ』は書き手のための段落であり,まとまりとしての段落が前面に出,理性が大事にされているのにたいし,日本語の『段落』は読み手のための段落であり,切れ目としての段落が前面に,読みやすさが大事にされているという違いがあるだけです。けっして優劣の問題ではありません」。

プラクティカルなアドバイスとして著者は,パワーポイントのスライド構成に触れいている。著者いわく,パワーポイントのスライドのは大きな弱点があり,それは「投影されるのが今話している一枚のスライドに限られ,直前直後のスライドの内容や,話の全体構成を示すスライドの内容が確かめることができないという点」だという。その弱点を補う方法として著者は三点をあげ,1)スライド上部にあるタイトルを工夫すること,2)これから話す内容の見取り図を事前に示す見出しスライドを作ること,3)直前のスライドと直後のスライドを意識するしかけを作ること,と述べている。

なお,この「段落論」というタイトル,そして内容は,とある作家の小説を元ネタにしたものだとか。その意味は「おわりに」で述べられている。

816

段落論 : 日本語の「わかりやすさ」の決め手 (光文社): 2020|書誌詳細|国立国会図書館サーチ