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ランダムな読書歴に成り果てた

マイク・ローザー『トヨタのカタ:驚異の業績を支える思考と行動のルーティン』日経BP社

読みやすい本では決してない。それは原書の構成やそもそもの内容――――具体例が工場の話だけ――のせいかもしれないし,翻訳のせいかもしれない。でもトヨタOBが「これはよく書けている」「トヨタには独特の仕事の進め方があるのだが,この本は暗黙知であるその仕事の進め方がわかりやすく書かれている」と評するぐらいの本である。

日本人には馴染みのある<カタ>という言葉。そう,武術なんかで使われる〈型〉である。無意識に刷り込まれた思考と行動のパターン,みたいな意味の。〈型〉という言葉はときに否定的な意味で使われる――「型にはまる」とか――けれど,本書内では当然ながら肯定的な意味で用いられる。

著者によると,マネジメントの定義はこうだ。「人間の能力を協調的な方法で利用することで,望ましい状態を継続的に追求すること。」

ビジネス書の著者はときとして,成功した老舗企業が低落するなかで新興企業が成功するのは,新しい企業が昔の時代遅れの考え方にとらわれていないからだと主張する。表面的には正しいように見えるかもしれないが,重要な教訓はもう一段深いところに隠れている。問題は企業の考え方が古いのではなく,その思考方法に継続的改善や適応が組み込まれていないことだ。

未来は予測できない。だからこそ,「効果的なマネジメントシステムとは,組織が予測できない,ダイナミックな状況に適応しつづけ,顧客を満足させつづけるものだ」。そして,「適応力が高く,つねに改善しつづけている企業の最高の手本の一つがトヨタだ」。

逆説的に思えるが,トヨタは解決策に執着しない。それは「組織の適応力が下がる」からで,それよりも「組織が現状を理解する」ことが大事だという。未来は不確実であるのが当たり前だから,それに対応するための自信の源泉は,「うまくいく場合もいかない場合もあるような事前に決めた実行ステップや解決策ではなく,見通しがきかない区間のなかを進むためのロジックと手法を理解することにある」。

〈現状〉があって〈ビジョン〉がある。その〈ビジョン〉は〈理想〉とも言い換えられるが,それは遠い彼方にあってあいまいなもので,そこに至る道は不明確で事前にはわからない。なので,その〈ビジョン〉に一歩だけ近づいた〈ターゲット状態〉を定め,それに向かって進む。それは短期的な目標であり,明確に定義されたものだ。

ターゲット状態に進むアプローチとして,以下の〈5つの質問がある〉:

  1. ターゲット状態は何か?(チャレンジ)
  2. 現在の実際の状況はどのようか?
  3. ターゲット状態の達成を妨げている障害は何か。いま,そのどれに取り組んでいるのか?
  4. 次のステップは何か?(PDCAサイクルの始め)
  5. このステップを実行することで何を学んだのか,いつ現場に行って見ることができるか?

〈カタ〉の指導は,メンターと弟子とのあいだで行なわれる。それは一見非効率で時間のかかるやり方に思えるが,そうすることで暗黙知が伝承され,継続的な改善を目指す企業文化が形象される。改善の実行の責任は弟子が負うが,その結果はメンターが責任を負う。つまりメンターと弟子とで責任を共有する。

509.6

トヨタのカタ : 驚異の業績を支える思考と行動のルーティン (日経BP社): 2016|書誌詳細|国立国会図書館サーチ