Dribs and Drabs

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SOAで生保数理に相当する Exam MLC (Models for Life Contingencies) を受験しました。その内容と感想など

こんど何の試験を受けるのかって同僚に訊かれて,「Life Contingenciesだよ」って答えると,だいたい薄ら笑いを浮かべられて「あーご愁傷さま」みたいな表情をされるんですが,それはひとえにみんな損保が専門だからであって,私は日本の試験で生保数理を受けたときから「嫌いじゃない」と思っていました。あのカチカチした世界が,いかにも「アクチュアリーの勉強してます」という気持ちにしてくれるというか。

で,その生保数理に相当するのが SOAの Exam MLC (Models for Life Contingencies) で,こないだそれを受験しました。生保数理とMLCとの違いが面白かったので,ここらでひとつまとめでもしておこうかと思います。

試験範囲と内容

全体的に言えば,日本の生保数理ほど細かいところまでつっこんで問われるわけではないが幅広い概念の基本的な理解が問われる,という感じでして,MLCに限らずですが,日本のアクチュアリー試験の1次試験は「第2次試験を受けるに相当な基礎的知識を有するかどうかを判定することを目的」といっている割には微細な内容まで問われさらに合格率が意図的に低く抑えられている印象を持たざるを得ないのに対して,SOA(あるいはCASでもいいですが)の preliminary examは,「もちろん簡単ではないけれど,指定されたテキストで指定された範囲をしっかり理解すれば,概ね合格が見込める」という感覚です(合格率は課目にもよりますが40-50%ぐらいかと)。

以前「SOA の Exam MLC がはるかに難しくなっていた(ことに気付いた)」で書きましたが,試験は選択式マークシートと記述式とで構成され,点数のウェイトは40対60ぐらい。試験時間は4時間。選択式で基準点を満たさないと記述のパートの採点はしてもらえません(採点の労力を考えたら当然ですね)。

指定図書はこちら。以前は Actexの"Models for Quantifying Risk" だったのですが,たしかSOAとCASがジョイントを解消してから,この Cambridge press の本に変わったはず。

Actuarial Mathematics for Life Contingent Risks (International Series on Actuarial Science)

Actuarial Mathematics for Life Contingent Risks (International Series on Actuarial Science)

 
生保数理との比較

大まかにいえば,日本の生保数理とこの本で紹介される Life Contingent Risks との違いは(あくまで印象で正確に比較したわけではないですが),

  • 日本の生保数理が生命表から始まり,lだのpだのqだのdだのを導入し,そしてさらにCだのDだのMだのNだのを導入し,それらをもとにAだのaだのを計算していくのに対して,Life Contingent Risks は,最初に年齢xの人間がt年内に死ぬ確率をF_x(t)(累積確率関数)と定義し,そして S_x(t) = 1 - F_x(t) を t_p_x と定義し,最初から確率論的な考えでもって話を進める。なので死力の導入も,一般的な hazard rate f(x)/S(x) のひとつとしてスムーズに導入されるし,Aだのaだのも,将来のキャッシュフロー(死亡時ないし生きている限り発生するキャッシュインフロー)の Actuarial Present Value(発生確率を加味した現在価値)として定義される。
    • なので,そのキャッシュフローの期待値がAとかaなわけですが,最初から確率論的な観点に立っているので,その分散(あるいは標準偏差)の算出まで求められる。
  • 日本の生保数理でも多重脱退は考慮するが,Life Contingent Risks は "Multiple state models" として,それをさらに一般的にしたかたちで学ぶ。
  • 日本の生保数理では連生の計算はしっかりさせられた記憶があるが,Life Contingent Risks ではそこはあっさりしている。
  • Life Contingent Risks では,Universal Life insurance が試験範囲としてある。また,Pension / Retirement benefit に関する計算も範囲に含まれるが,日本の年金数理と違って funding method に注目するものではなく,あくまで個人に対して発生するキャッシュフローの問題にとどまる。

といったところでしょうか。

日本の試験は今のままでいいのか

最近日本でも「確率論的な生保数理」というスタンスの本が散見され(例えば以下),そしてこれがアクチュアリー試験の参考図書として指定されているようですが,生保数理の教科書としては以前として二見の『生命保険数学』が指定されていますが(もちろんこれはこれで古典でしょうが),いつまでもそんなんでいいのなか,と。(根本的な問題としては,改訂されることのない本を「教科書」として指定している試験が,時代の変化・時代の要請に対応しているのか? ということだと思うのですが)

アクチュアリーのための 生命保険数学入門

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