Dribs and Drabs

ランダムな読書歴に成り果てた

池田巧『中国語のしくみ』白水社

なんだろう,中国語っていちばんやらなきゃいけない言語のひとつなはずなのに,やる気が出ないのはなぜだろう…。同じ漢字だしラクかもと思ってたけど,同じ漢字だからこそ誤解が起きやすそうだし,簡体字はちゃんと手で書いて覚えなきゃいけなそうだな。

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同じことばであっても話されている地域によって発音や表現に違いがあるのは当然ですが,標準語を使えば,どんな地域の中国語話者との間でもコミュニケーションが可能です。そこには社会が異なり,時代が移ろうとも,変わらないことばのしくみがあります。

1章 文字と発音のしくみ

北京をホクキョウではなくペキンと読むのは,やや古い時代の中国語の発音がヨーロッパ経由で伝わったもので,現代中国語ではBěijīngと表記し,ペイチンに近く聞こえます。

中国語の音声や漢字の読みかたは,pīnyīn[ピンイン]という発音ローマ字で表記します。ピンインはアルファベットを借りて使っています。発音表記のしかたには中国語独特の約束がありますので,英語のスペルや日本語のローマ字のつもりで読んでしまうと,中国語らしくはなりません。

中国語には,音の高さと上昇・下降によって語を区別するしくみがあります。同じmai[マイ」という発音の語でも,低く発音するとmǎi 「買う」ですが、高くから降る調子ならmài「売る」という正反対の意味になります。

中国語の声調には第1声[高],第2声[昇],第3声[低],第4声[降]の4種類があり,それゆえ四声とも呼ばれます。

日本でもハシ(箸/橋)やアメ(雨/飴)のように高能で話を別す場合があります,これは高さアクセントと呼ばれるもので中国話の声調とは異なります、大きな違いは,日本語の場合,すべての単語に固定した声調(高低昇降など)があるわけではありませんし,音調を変えると語の意味までが変わってしまう単話はごく少数です。それに対して中国語では,すべての音節が必ず4つの声調のどれかに属し,話によって高低昇降の組合せがしっかりと決まっています。ですから中国語の単語を覚えるときには,必ずその声調にも注意して覚えておく必要があります。

おおまかにいうと,ことばの音調において高さや強さがドコ(にある/まで)かが問題になるのがアクセントであり,決まった種類の音調のうちのドレを取るかが問題になるのが声調だということができます。

日本でよく知られている中国語の方言に,香港で話されている広東語がありますが,北京のことばと香港のことばで直接話をしてもお互いに理解することはほとんど困難です。その違いは感覚的に言うと英語とドイツ語くらいの差があるように思えます。

2章 書き方と語のしくみ

簡体字の字形と発音と意味を確認できたら,いちど自分の手で書いてみてください。そのとき日本語に読み替えてしまわないで,中国語音で発音しながら書くように心がけると,簡体字に中国語音を直接結びつけることができます。これはやがて勉強がすすんで「簡体字を見たら中国語音で読める(=中国語が読める)」ようになるための大切な基礎練習です。

現在の日本で使われている常用漢字の字体は,1981(昭和56)年の内閣告示によるものですが,その基になったのは1949(昭和24)年に公布された当用漢字字体表でした。この字体は戦後の民主改革の流れの中で日本が独自に制定したもので,それまでは清の康無帝の命により編築された「康熙字典」(1716年完成)の字体を「正字」として採用していました。今の日本で使われている常用漢字の字体は,1981(昭和56)年の内閣告示によるものですが,その基になったのは1949(昭和24)年に公布された当用漢字字体表でした。この字体は戦後の民主改革の流れの中で日本が独自に制定したもので,それまでは清の康無帝の命により編築された『康熙字典』(1716年完成)の字体を「正字」として採用していました。

1977年の国連の地名標準化会議において,中国の地名のローマ字表記はピンイン方式によることが正式に採択されました。以来中国語の正式なローマ字表記法として世界的に公認されています。

ゴールドラッシュの時代には,早くも広東系の中国移民がチャイナタウンを作って居住していました。中国語圏に行く機会がありましたら,書店で世界地図帳を1冊購入してみるのもいいでしょう。中国語で表記する世界の地名には,想像もつかないような漢字の組合せがあって,世界が違って見えて来ます。

日本語に定着した漢語はかなり古い時代のことばで,いわば中国語の古語ですし,異なる文化を背景に異なる歴史をたどってきた異国の社会で使われている外国語どうしですから,日本語では使わない中国語独自の単語や表現が大量にあるのはもちろんのこと,日中同形語であっても意味の違うものも少なからずあります。

日本で造られて中国語に取り入れられた漢語も少なくありません。明治維新後に西欧の概念を翻訳するために造られた新語の一部は,日本に留学に来ていた清国からの留学生を通じ,また中国と日本で互いに参照して編集されたさまざまな英華辞典と英和辞典、西欧の著作の翻訳などを通じて中国語のなかに取り込まれて行きました。

3章 文のしくみ

それに対して中国語では単語の音や綴りが文法特徴を表しませんから,語と話の組合せを手がかりに単語の性質を見きわめなくてはなりません。したがって単語に品詞を明示して文法的な類別を示すことは,単語の形が変化する言語よりも,中国語においてこそ重要な意義があると言えます。

中国語の文の構成成分には{主語}{述語}{修飾語}{中心語}{目的語}{補語}の6種類があります。中国語の{修飾語}は,必ず前から修飾します。英語の関係代名詞のような語を使って後ろから説明的に修飾するしくみはありません。{修飾語}つく成分が{中心語}。

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1章 区別のしくみ

日本では著名な歴史小説の作家が改編した『三国志』や,それにもとづ<漫画がよく読まれていますが,これらは言わば和風の味付けをした大衆中華料理のようなもの。中国世界に親しもうと思ったら,やはり原著の追力にはかないません。中国語の原文で読むのは難しいとしても,本場の味を伝える優秀な料理人のつくる中国料理に匹敵するような,原典からの忠実な翻訳が出版されていますから,ぜひ手に取ってみてください。これらの長編小説の翻訳は,いずれも岩波文庫に収録されています。

2章 動作のしくみ

動詞‘穿’のあとにつく‘-了/-着/-过’を「動態助詞」といいます。「動作の状態を表す助詞」という意味で,この3種類しかありません。

中国語では動作の行なわれた時点とは別に,動作がこれから行なわれようとしているのか〔将然〕,行なわれている最中なのか〔進行)、すでに行なわれてしまったのか〔完了〕,行なわれた結果その状態が続いているのか〔持続〕,かつて行なわれたことがあるのか〔経験〕,といった動作の段階の様相(ありさま)が示されるしくみになっています。この「動作の段階の様相」をアスペクト(あるいは相)と呼んでいます。

‘会’は「習得してできる」ことですから,語学やスポーツについて言う場合が多いのですが,面白いことに酒やタバコにも使われます。酒やタバコは練習して習得するものなのですね。

3章 「てにをは」のしくみ
4章 数のしくみ
5章 実際のしくみ

中国語の‘你好!’!Nǐ hǎo!は、日本語の「こんにちは!」に相当すると思いがちですけれども,初対面あるいは久しぶりに会ったときに使うかなりフォーマルなあいさつです。しかも 1930年代頃から使われ始めた比較的新しい表現らしく、ロシア語のЗдравствуйте からの翻訳ではなかったかと考えられています。

現代中国語の辞典の配列のしかたには2種類があります。ひとつは親文字を立て,見出字のもとにその字が含まれる熟語を集めて並べた「漢和辞典式」のもので、本格的な中型辞典として定評ある小学館と講談社の『中日辞典』は,いずれもこの形式を採用しています。ただし現代中国語辞典の場合には,親文字も熟語も漢字の画数ではなく,読みかたのピンインのアルファベット順に並べています。書かれた文章中などで,文字がわかっている単語の意味を調べる場合には,この配列の辞典が便利です。

いまひとつは,単語をピンインで表記して,綴りのABC順に完全配列した発音主体の辞典です。見出しはローマ字で,同音の語は,四声の順により軽声を最後に並べます。漢字表記を気にせずに耳から聞いたとおりの音の綴りを調べて辞典を引くことができます。入門者向けの『はじめての中国語学習辞典』(朝日出版社)が、この配列法を採用しています。

もし電子辞書を購入するのなら,収録語数も豊富な小学館もしくは講談社の『中日辞典/日中辞典』が搭載されているものを選ぶとよいでしょう。電辞書では漢字表記を気にせずに,ピンインの綴りから直接検索できるのが便利です。簡体字の手書き入力ができる機種もあります。

参考図書ガイド

中国語の学習書は部大な量になりますが,そのなかから卓越した視点で中国語を分析した解説書を紹介します。

中国語を学んでいく中で誰もが出会う疑問に,中国語研究の最前線で活躍する気鋭の先生がたが,わかりやすく丁寧に回答してくれる中国語学習の読みもの3部作。「入門」「学習』「教室」と順に内容は深くなっていきますが,中国の社会と文化的背景にも踏み込んだ明快な解説に、眼から鱗が何枚も落ちます。『教室』には3冊の総合索引がついていて便利です。

見開きで1トピックを解説する読みものスタイルの参考書。本書の次にステップアップして参照すべき一冊は,この本です。中級中国語というタイトルですが,例文にはピンインがついていて,日常よく使う表現が採用されていますので,初級から上級まで幅広いレベルのひとが使えます。

機能語がどのように文を組み立てているのかを詳しく丁寧に解説した文法書。例文は漢字のみなので,初級を終えて中級以上を目指すひと向きですが,中国語のしくみの本質に迫ります。

日本語と中国語を対照して,それぞれの言語の特色としくみを描き出した好書。日本語の漢語と対応する中国語の単語のそれぞれの背後の広がる世界の捉えかたに驚き,感心させられます。

中国語のしくみ 新版 | NDLサーチ | 国立国会図書館