Dribs and Drabs

ランダムな読書歴に成り果てた

織茂信尋『魚屋は真夜中に刺身を引き始める:鮮魚ビジネス革新の舞台裏』ダイヤモンド社

東信水産代表取締役である著者による「魚屋の手前味噌な話」と言ってしまえばそれまでなんだけど,「業界の既存のビジネスモデルの限界と潜在的なチャンス」「養殖魚,冷凍魚が秘める可能性」「最新テクノロジー」「ビッグビジネスを生み出すマグロの秘められた生態」「今日の鮮魚小売店が抱く課題」「東信水産における課題解決のチャレンジ」「当社全店舗およびプロセスセンターにおける衛生管理やHACCP」「顧客行動の変化にともなう新しいマーチャンダイジング」「未利用魚のブランド化や環境問題,および改正漁業法や密漁問題,地政学」などを語る,意欲的な本である。

装丁がしっかりしてて,そこからも只者じゃない感が漂っているんだな,この本。

東信水産の業界での立ち位置が門外漢である僕には不明なんだけど,

水産業界では内臓を除去することを「カンペイ」というが,もともとこの言葉を作ったのは初代という。伝え聞くところによれば,カンペイは歌舞伎や人形浄瑠璃でも有名な"おかると勘平"の勘平から来ているとのことだ。たまたま二人の悲哀の物語を映画で見て,勘平の切腹シーンに感激して以来,「カンペイ」というようになった。「勘平のごとく美しく腹を切れ」というわけだ。

マクロからミクロまで面白い話がいくつも登場するのだが,やはりいちばん目を引いたのは,いまでこそ刺身や寿司でよく食べるサーモン,実はノルウェーのマーケティングとブランディングによって,サケの生食が普遍化したんだそうな。

ということで,そういう創意工夫があれば縮小しつづける水産業界でもまだまだチャンスはあるぞ,というのが著者のスタンスで,著者の会社でもITシステムの導入とか荻窪にプロセスセンターを設置したこととかによって生産性が向上,利益率も改善したんだそうな。ただそういうのって先行者利益というか,そういうのが業界に浸透したときに,さて次なる利潤の源泉はどこにあるんでしょうねっていう話になるんだけど,だからこそ企業には継続的な進化が求められるっていうことなんでしょうね。

ひとつ面白かったのが,コロナの影響で各売り場が時短を迫られる中,利益率は落ちていないどころかむしろ向上している感もあり,というのも「営業時間短縮により来店時間も分散されたことで日中の売り上げも伸び,商品の廃棄ロスが軽減され,さらには売り場の働き方も健全化された」のだと。

673.7