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1章 文字と発音のしくみ
ベトナム語はおおよそローマ字どおりに読みます。といっても,[キアラ サイゴン]と日本語の発音で読んでも通じないでしょう。というのも,ベトナム語では,ローマ字のつづりが同じでも,声の調子(上がり下がりや抑揚)によって,例えば,日本語で[ラ]と示される語でも,「叫ぶ」「…です」「たわむ」「薬」「珍しい」など,全く意味の違う別の語になってしまいます。ベトナム人が話すのを聞いて「音楽のようだなあ」と感じるは,この声の上がり下がりなどによるためです。
いままでに「平らな声調」「下がる声調」「重い声調」の3種類の声調が出てきました。実際の音を聞いてみてください。ベトナム語にはこのような声調が全部で6種類あります。
ベトナム語の6種類の声調には中国語の四声のような配列はありません。番号ではなく,声の調子による「鋭い」や「重い」という名称がつけられています。辞書や参考書での配列もまちまちです。
2章 書き方と語のしくみ
すでに見てきたように,ベトナムは漢字文化の影響を長く受けてきたので,かなり多くの語が漢語から入ってきました。ベトナム語の語のうち,およそ60パーセントが漢語に起源を持つと言われています。
ベトナム人の名前は,苗字+ミドルネーム+名前で構成されているものがほとんどです。
ベトナム人を呼ぶときには苗字ではなく,名前を言います。
まずは音の違いです。音の違いで顕著なのは声調にも地方差があることです。中部,南部では「尋ねる」声調と「倒れる」声調の区別が曖味で,ふたつが同じ調子で発音されます。発音を区別しないために,声調記号の書き間違えも目にします。
全国ニュースはハノイから送言されるので北部の言葉が多く,地域のニユースはそれぞれの地方の言葉で伝えられています。学校の国語の授業では,全国的に北部の言葉を教えています。これは,北部の言葉の方が,音と文字の関係が分かりやすいからで,また現在はハノイを中心とする北部地方の言葉を標準とする考えが普通だからです。
3章 文のしくみ
ベトナム語では,主語が自分か他人か,男性か女性かによって動詞の形が変わることはない――そういうしくみが見えてきましたね。
疑問文を言うときに気をつけたいことがひとつあります。それは,『疑間文を尻上がりのイントネーションにしないように,声調記号の通りに言いましょう」ということです。
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1章 区別のしくみ
そこに「区別」があるから!なのです。ナムは男性です。ホアは女性です。日本語では区別しないけれど,ベトナム語では「さん」を区別するのです。Anh+相手の名前で,自分と同世代の男性を親しく呼びます。Chị+相手の名前で,自分と同世代の女性を「~さん」と呼びます。「~さん」を,性別でanhとchịに区別しているのですね。
わたし自身のベトナム生活を振り返ると,初めのころは使い分けできずに,ベトナム人の友人に直されました。面倒くさいと思いましたが,次第に気持ちが変わってきました。見知らぬ土地に「伯父さん,伯母さん」と呼べる人がいて,たくさんのanh em「兄妹」がいる,そんな温かい気持ちがわいてきて,ベトナムと,そこに生きる人々がとても身近になりました。「わたし」と「あなた」は,最初は戸惑う「区別のしくみ」ですが,きっと皆さんをベトナム語の深くて温かい世界に誘ってくれるはずです。
2章 話題のしくみ
そういえば,以前にベトナム勤務が長い日本人ビジネスマンが,「日本語の『ちょうだい」の語源は,ベトナム語のcho tôiだ」と力説してくれました。音は似ていますが,関係ありませんね。よい子のわたしは危うく信じそうになりましたが……。
3章 「てにをは」のしくみ
4章 数のしくみ
- 0 không コン
- 1 một モッ
- 2 hai ハイ
- 3 ba バー
- 4 bốn ボン
- 5 năm ナム
- 6 sáu サウ
- 7 bảy バイー
- 8 tám ターム
- 9 chín チン
5章 実際のしくみ
参考図書ガイド
「寝ながら読める」のが「言葉のしくみ」シリーズですが,次は机に向かって勉強してみたい人のために,以下の本をお勧めします。
定評ある語学書シリーズのベトナム語版,語彙リストも充実していて自習にも便利。
川口健一ほか『こうすれば話せるベトナム語』(朝日出版社)
多くの本が標準語である北部方言に基づいて編集されているなか,南部方言で書かれたほぼ唯一のベトナム語学習書です。
宇根祥夫『ベトナム語 速読・速聴・速解』(三修社)
「入門書では満足できない」人のための,なかなか手強い問題集です。日越辞書を傍に置きながら勉強してみるといいでしょう。
さて,ベトナム語文法をくわしく知りたい。そして表現をとことんトレーニングしたいという人には手前味噌で恐縮ながら...
「しくみ」を楽しく読み終えた方から中級レベルまでを対象に,ベトナム語文法の骨格を丁寧に説明してみました。北部と南部の方言差にも触れてあります。
簡潔な解説に目を通した後,実際に練習問題を解いて表現や文法の力を高めていく本です。
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