Dribs and Drabs

ランダムな読書歴に成り果てた

吉田浩美『バスク語のしくみ』白水社

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皆さんはバスク語に対してどんなイメージを抱いていらっしゃるでしょうか。「西ヨーロッパの片隅でフランス語とスペイン語という大言語に挟まれて細々と生きている少数民族語」,「欧州にありながらそのルーツが未だに不明の謎の言語」,「悪魔が罰としてその習得を命じられた言語」…どんなイメージでもいいのです。ともかく「本当のところどうなのか」を知るためにこの本を開いてみませんか?

1章 文字と発音のしくみ

そして,daは,まさしく発音もそのまま日本語の「~だ」に当たります。Tomatea da.は「トマトだ」,Kafea da.は「コーヒーだ」という意味を表すわけです。

hauが「これは」にあたります。発音は,フランス領バスクの話者は[ハウ]と発音しますが,スペイン領バスクの話者はを発音せずに[アウ]と発音します

バスク語のzとsの違いですが,zaとsaを例にすると,まず普通にza「サ」と言うときの舌先の位置を確認してください。舌の先端が,下の歯茎の裏あたりに落ち着いているはずです。それに対しsaは,舌の先端部分をほんの少し持ち上げた感じで発音します。その感じで「さしすせそ」と言ってみてください。聞いた感じは,za「サ」とxa「シャ」の中間の音のように聞こえるかもしれません。

2章 書き方と語のしくみ

スペインではフランコ時代にバスク語を公に使用することが禁止されていたので,その時代に生まれた人にはほとんどの場合スペイン語の名前を付けざるを得ませんでした。フランス領バスクでもバスク語の名を付けることが長い間できませんでした。それが解禁となってから生まれた子供たちは,ほとんどがバスク的な名前を持っていると言っても過言ではありません。

3章 文のしくみ

ともあれ,否定文のような特別な場合をのぞいて,日本語式の語順で語を並べていけば大きな間違いはまずないと考えて大丈夫です。

バスク語は西ヨーロッパの片隅で話され,北にはフランス語,南にはスペイン語,二つの大言語に挟まれているにもかかわらず,これらの言語とは系統的には関係がなく,たいへん異なるしくみを持っています。と言うよりも,そもそも世界のどの言語と同じ系統なのかがわかっていないのですから,どの言語と比べてもなんだか違う面をいろいろ備えていると言えます。そうかと思うと,語順のところで見たように,日本語と似ているなと思える面もあります。

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1章 区別のしくみ
2章 人と時間のしくみ
3章 「てにをは」のしくみ
4章 数のしくみ
  • 1 bat バと
  • 2 bi ビ
  • 3 hiru イル
  • 4 lau らゥ
  • 5 bost ボすと
  • 6 sei せイ
  • 7 zazpi サスピ
  • 8 zortzi ソルツィ
  • 9 bederatzi ベデラツィ

ところで,0ですが,これは国際的・普遍的な zero(セロ)と,よりバスク語的な huts (ウちゅ)と,二つの言い方があります。サッカーの試合などで,「1対0」などと言う場合,テレビなどでは bat eta huts と言うことが多いようです。

5章 実際のしくみ
参考図書ガイド

拙者で恐縮です。バスク語の文法と会話の基礎を学べるように縮んだものです。ドリルも豊富で,音声も付いています。

少し古いのですが,バスク語の歴史,文学史。会話入門,文法概説諺集など,盛りだくさんな内容で,総合的な案内となっています。

『バスク語』(『言語学大辞典』第3巻 世界言語編 下-1 ぬ~ほ),田村すず子,1992年。

辞典のなかの一項目として書かれていますが,バスク語の歴史,文法がコンパクトにまとまっています。

私の編書で恐縮です。これは辞書ではなく,語彙集です。バスク語一日本語の辞書は刊行されていません。

英語で書かれている独習用の入門書です。大部なもので,会話,文法解説,豊富なドリル,読み物,語彙集が付いています。

これも英語で書かれた入門書です。これもやや大きめです。文法解説のほか,ドリル,語葉集など,独習のための配慮がいっぱいです。

著者紹介

吉田浩美(よしだ ひろみ)

秋田県生まれ。早稲田大学第一文学部卒,東京大学人文社会研究科言語学専門分野博士課程修了.博士(文学)。専門は言語学,フィールドワークに基づき現代バスク語諸方言の音韻や文法の記述を行なっている。早稲田大学,大阪大学などでバスク語の授業を担当している。主な著書に 『バスクの伝説』(1994,大学書林),『バスク語常用 6000語』(1992,大学書林),『ニューエクスプレスプラス バスク語』(2019,白水社)など。日本語からバスク語への翻訳書に“Arratsaldeko stoia"(1994,Ibaizabal,三島由紀夫『午後の曳航』),“Chuya Nakahara”(2017,Susa,中原中也の詩のアンソロジー),"Nagusia kanpoan bizi da / 1928ko martxoaren 15a(2017,Katakrak,小林多喜二『不在地主/一九二八・三・十五』)がある。またバスク地方の雑誌やラジオ局などとコラボした活動も行なっている。

バスク語のしくみ 新版 | NDLサーチ | 国立国会図書館

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