Dribs and Drabs

ランダムな読書歴に成り果てた

大島一『ハンガリー語のしくみ』白水社

語順は日本語に似ているようなところもあり,でも動詞の活用をみるとやっぱり欧州系の言語だなと思うところもあり。

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では,本当にハンガリー語は日本語と似ているのでしょうか。確かに,英語よりは似ているでしょう。でも,どの程度,似ているのでしょうか。また,どの程度,違っているのでしょうか。そこを,この本を通して実感していただければと思います。

私見では,ハンガリー語は日本語とよく似ているし,日本語話者にとって大変学びやすい言語だと思っています(もちろん,異なる部分も多々ありますが)。本当に面白いことばです。また,ハンガリー語は,詩や音楽の分野でも大きな影響力を持っています。そうしたことも,本当に簡単にではありますが,この本で紹介していきたいと思います.

1章 文字と発音のしくみ

ハンガリー語のアクセントは常に語の最初にあります。paprikaでは,最初のpaが最も強く発音されることになります。このaは大変特徴的な音で,日本語の「ア」とは異なり,唇を丸めて[ア]と発音します。ほの暗い,哀愁漂う響きがして,大変ハンガリー語らしい音と言われています。

たとえば,英語の coachですが,「コーチ」「コーチする」という意味のほかに,「馬車」という意味もあります。本来は馬が引く客車のことです。その昔,馬が引く客車を作る一大産地がハンガリーのKocsという村でした。そこで「馬車といえば,Kocsのものだ!」ということで,「馬車」を意味することばがkocsi「コチュの(もの)」となりました。その後,このことばが英語に伝わり,やがて日本にも伝わったわけです。

2章 書き方と語のしくみ

手書き文字の特徴について見てみましょう。まず,すべての長い音を示す記号が,斜めではなく,垂直に書かれていることが分かると思います。これは,ハンガリーでは学校教育の中で「長い音を示す記号は縦に書くように!」と教わるのだそうです。

1956年のハンガリー動乱でソ連の軍隊に蹂躙されたハンガリーですが,同年,メルボルン・オリンピックで,ハンガリーチームは見事にソ連チームを打ち負かしました。日本でも公開されたハンガリー映画『君の涙ドナウに流れ ハンガリー1956』は,1956年のハンガリー動乱およびメルボルン・オリンピックでの水球戦を描いたものですので,ぜひ一度ご覧になってくださればと思います。

3章 文のしくみ

このように,ハンガリー語において,「~は….です」は「~」と「...」にあたる語を順番に並べればよいと覚えてください。

母音:ハンガリー語の母音は,a,e,i,o,ö,u,üの文字で表されますが,これらの母音の発声を伸ばした。á,é,í,ó,ő,ú,űもあります。その伸ばし具合は,短い母音と比較して1.5~2倍程度です。

なお,őとűという長い母音を表す文字は,ハンガリー語独特のものですから,とあるテキストにこれが見つかれば,まずそれはハンガリー語であると言ってよいでしょう。

ハンガリーも,いまではヨーロッパ連合に加盟し,立派なヨーロッパの国の1つなのですが,言語的な区別でいうとそうではありません。ヨーロッパの国々の言語のグループとは異なる,ウラル語族というグループに属しているからです(これはフィンランド語やエストニア語も同様です)。/よって,ハンガリー語の特徴は,英語やドイツ語,フランス語,イタリア語などといった主要なヨーロッパの言語の特徴とは大変異なります。逆にいえば,英語と大変異なる言語である日本語と似ている部分も多いということです。

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1章 区別のしくみ

日本語に冠詞はありませんが,その働きは日本語の「が」と「は」のようなものだと思います。

もう1つ,重要なことは,この「~の」という表現では,必ず頭にa/azが必要です。「だれのものか」「私のもの」と言えるのは,ほかならぬ,そのモノが何であるか,当然「知っている」ことになります(「知らない」モノがだれのところにあるか,言える道理はないですよね)。

この所有の表現は変化に富み,また例外も多いので,ハンガリー語のしくみでは大変難しいところです。

2章 人と時間のしくみ

たとえば,勉強する場所が,友人の家で,その友人に対して「勉強しに行く」と言うときはこのような表現になるのです。つまり,友人にとってみれば「私が勉強しに来る」ことになるので「来る」を表す動詞を用いるのです(その昔は,ハンガリー語も,日本語と全く同じ用法・観点の「行く」「来る」だったそうですが)。

3章 「てにをは」のしくみ

ハンガリーにおける日本語学習熱はかなり高く,大学においても,日本学科は人気の学科の1つだそうです。

以上,「上」「中」「あたり」の3つの位置と,「~に/で」「~へ」「~から」という3つの場所・方向性を説明してきました。合計9とおりの場所を表すことばがハンガリー語には存在します。

4章 数のしくみ
  • 1 egy エッヂュ
  • 2 kettő ケッテー
  • 3 három ハーロム
  • 4 négy ネーヂュ
  • 5 öt エト
  • 6 hat ハト
  • 7 hét ヘート
  • 8 nyolc ニョルツ
  • 9 kilenc キレンツ
  • 10 tíz ティーズ

さて,ここから何か分かりますか。いや,分かりませんね。地道に覚えるほかないようです。でも,8と9がともに語の最後がcであることは,何か考えさせられますね。いかにも,後から付け足しで考えだして作ったかのようです...(そもそも,過去においては6進法だったと言います),

5章 実際のしくみ
参考図書ガイド

名詞や動詞の活用形が見出し語付近に載っているのは大変ありがたく,有益である。

入門書形式を持ちながら,包括的な説明を含んだ良書。付属CDの音源も大変興味深い。

各場面での詳細なフレーズの紹介が秀逸。かつ,末尾にある「ビジュアル ハンガリー語」は大変有用.

実際にハンガリーに住んでいるかのように展開される会話スキットと詳しい文法説明,そして著者および留学経験者たちによる豊富なコラ ムが嬉しい。

文庫本による再版,日本におけるハンガリー学のパイオニアのみならず,博学な著者の見解は傾聴に値する。

葬台は19世紀末のブダペスト。パール街(Pal utca)にある”原っぱ”をめぐる少年たちの戦いを描く。ブダペストではパール街のほど近くにあるプラーテル通り11番(Prater utca 11)に行くとよい。きっと彼らに出会えることだろう。

ハンガリー語のしくみ 新版 | NDLサーチ | 国立国会図書館

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