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ランダムな読書歴に成り果てた

山本芳久『トマス・アクィナス:理性と神秘』岩波書店(岩波新書)

Twitter界隈で非常に盛り上がっている印象を受けまして,興味本位で手を出してみました。が,そういうたぐいの本ではなかった。 

トマス・アクィナス――理性と神秘 (岩波新書)

トマス・アクィナス――理性と神秘 (岩波新書)

 

 いや,とても意欲的で,素晴らしい本だとは思うんです。文章としても,非常に洗練されていて,推敲されていて,読みやすい。ただなんというか,こちら側に,受け止める土壌・素養・余裕がない。

「あとがき」を読んで,なるほどと思いました。

本書を貫いている根源的なテーマの一つは,「善の自己拡散性」「善の自己伝達性」という根本原理である。この原理は単なる抽象的な一教説に留まるものではない。自分の人生を顧みると,それがいかに多くの善の贈与によって支えられてきたのか,驚かざるをえない。善を贈与してくれているのは,万物の創造主である神のみではない。私に人間としての生命を伝達し育んでくれた両親,様々な知識や知恵を伝達してくれた恩師たち,愛情を贈与してくれた友人たち,溢れんばかりのこれらの善の贈与なしには,私の人生は片時たりとも存続することができなかっただろう。

著者は,トマス・アクィナスを「対象物」として観察・推察・分析・記述しているわけではない。あくまで,その世界の中に身を置き,その中から,溢れんばかりの愛と知性と深く慎重な読みと洞察でもって,この本を書き上げたのだ。

ということで,概説的な「第一章 トマス・アクィナスの根本精神」は非常に興味深く読めたのですが,それ以降の,実際にトマス・アクィナスが書いたものを読み解くところについては,その中に入っていくことができなかったです。

でもまぁ,僕なんかが擁護する必要ないと思いますが,素晴らしい新書です。