Dribs and Drabs

ランダムな読書歴に成り果てた

羅芝賢『番号を創る権力:日本における番号制度の成立と展開』東京大学出版会

交換留学生として韓国から日本に2005年に初めてやってきたという著者の博士学位取得論文に加筆訂正を行なったものという本書。「あとがき」には,2013年に区役所で転入届を出してそのあと警察署にいって運転免許の住所変更手続きをしたときに難儀したというエピソードを受けて,

日本の役所の対応が理不尽に思えてくるのは,おそらく筆者が韓国の役所を経験しているからであろう。韓国の役所では,転入届に名前と住民登録番号を書けば運転免許証にも新しい住所のラベルを貼ってくれる。

と書かれてあって,「そうそう,そういうのを求めているんだよ! なんで日本はそういうのができないんだよ!」と激しく同意するんだけど,物事(の成立過程)はそう単純じゃないし,そもそもも「経路依存」というのがあってさ,というのを思い出させてくれるのが本書である。

話は日本の戸籍制度からはじまり,それは近代的な徴税・徴兵制度とのあいだには矛盾を引き起こすものであったのにもかかわらず,戸主に免役や参政権といった権利を与えることなどによって,徴税・徴兵制度を戸籍制度が補完し,さらに戸籍制度も安定に向かう基盤を固めたということとか,番号制度というとプライバシー保護の問題が出てくるけど,それもメディアとか政治家とかの利害関係者が騒ぎ立てた結果であるにすぎないという側面もあるということとか,地方自治体では実はコンピューター導入は進んでいてかつ大手メーカーによる囲い込みが事実上なされいてる状況(ベンダーロックイン)が結果的に住民管理の集権化を妨げる動きになったとか,あるいは国民番号制度が進んでいる韓国も台湾もエストニアも,日本による植民地化とかソ連併合とかいう歴史があってこそそういう現状に至るみたいな話とか,とにかくカバレッジが広い。

印象的な箇所のひとつが,杉並区が住基ネットからの離脱を宣言したときの区長が山田宏で,その山田はもともと日本新党の衆議院議員で,地方分権改革という流れがある中で,山田的には国政復帰を目指すという気持ちのこじらせのようなものがあり,「国と地方とは対等な関係だ」というイデオロギー的な言動の一環として住基ネットからの離脱があった,というような書かれ方をしているところ。

317.6

番号を創る権力 = NUMBERS AND POWER : 日本における番号制度の成立と展開 (東京大学出版会): 2019|書誌詳細|国立国会図書館サーチ