この本は,エドモン・ド・ゴンクールのいう「人を陶然とさせるパリの生活特有のあの熱気」,その風俗,文人,画家たちの野心に満ちた生活,成熟するブルジョア層の活動,娼婦の皆さんの生態,貴婦人を始め,華やかに生きるブルジョアや庶民の女性たち,そして闊歩するジャポニズム,活躍した日本人,権力と社会のさまざまな葛藤,つまりは絢爛をきわめたこの時代のフランスを,兄弟の『日記』を基軸にして,入手できる情報をもとに,えがき出したものである。
ということで,面白そうと思ったけど,自分向きの本ではなかった。
その日,モルニー侯爵は,秘書のアルフォンス・ドーテが作って持参した『黒んぼ姐さん黒んぼ男大好き,黒んぼ姐さんジゴ(羊の股肉)大好き』式のマダカスカル現地人風でたらめ歌を聞くと,夢中になり,リシュリュー枢機卿に似せて,お椀帽をかぶり,大きな部屋着を着こむと,作曲したレピーヌとドーデともども,三人で,足のせ椅子の上に飛んだり跳ねたり,大声で,「ジン・ブン・ジン・バダブン」と合唱し,大はしゃぎしたそうだ。
この第1章の出だしの一文で,自分が読者として歓迎されていないことが分かった。
(上で引用した文章はふたつともひとつの文章で書かれていて,単純に読みにくい。と同時に,著者の自己陶酔ぶりを象徴しているかのようだーー平たく言えば,ひとりよがりな文章だということ。)
950.268