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ランダムな読書歴に成り果てた

大西康之『起業の天才!:江副浩正8兆円企業リクルートをつくった男』東洋経済新報社

著者の見立てとしては,リクルートを創業した江副浩正は,GoogleやAmazon(AWS)に匹敵する構想を遥か前に構想していたほど先見の明があったものの,お目付け役となるエンジェル投資家が日本にいないがために足元を救われ,江副を商売敵と見なした(広告主を奪われた)大手メディアが江副に濡れ衣を着せて「リクルート事件」をでっちあげて社会的に抹殺した,ということになる。まぁそうなんだろうけど,

日本はいつから,これほどまでに新しい企業を生まない国になってしまったのか。答えは「リクルート事件」の後からである。/リクルート事件が戦後最大の疑獄になったことで,江副が成し遂げた「イノベーション」,つまり,知識産業会社リクルートによる既存の産業構造への創造的破壊は,江副浩正の名前とともに日本経済の歴史から抹殺された。

というのは,少し短絡すぎな記述だと思うけどね。

興味深いのは,江副が「アマゾンのジェフ・ベゾスやグーグルの創業者であるラリー・ペイジやセルゲイ・ブリンと同じことをやろうとした大天才」だったとして,江副自身はペイジやブリンのようなエンジニアでもないし,ベゾスのように将来を見据えて既存の企業で自らを鍛えたわけではないということ。本書を読めばよく分かるけど,江副は自分より優秀な人間で周囲を固め,彼らのモチベーションを喚起するかたちで,リクルートを大企業に成長させた。そこには「伝統的日本型企業では実力を発揮できない人たち」――たとえば型破りな人間や,女性,在日韓国人――を登用し活用したという面があって,そういう意味では,高度成長期という背景ともあいまって,「時代が生みだした寵児」といえるんだろうなと思った。

289.1

起業の天才! : 江副浩正8兆円企業リクルートをつくった男 (東洋経済新報社): 2021|書誌詳細|国立国会図書館サーチ