Dribs and Drabs

ランダムな読書歴に成り果てた

Tom Doak『ゴルフコースを解剖する:設計の技術とコース攻略法』ソフトサイエンス社

Amazonにデータがないんだけど…『The Anatomy of a Golf Course』が翻訳されていたの,知らなかった。

翻訳について

「ゴルフに関して全く門外漢である」という訳者(籏野充子)による訳は,全体的に頑張っているけれど,ところどころで間違いがある。「無類のゴルフ好きで,あるクラブの競技委員もしている」という籏野の夫が「毎晩夜更けまで再度原書との照合,公正に没頭し,専門用語のチェックはもとより,誤訳の訂正に励んでくれた」そうなのだが,残念ながらザルであった。

  • TPC Sawgrass。確かに正確には「Tournament Player's Club at Sawgrass」だが,「SawgrassのTCP」あるいは「Sawgrassのトーナメントプレーヤーズクラブ」と訳されているのは,いただけない。
  • 本のタイトルを日本語訳するときの表記の揺れ。ある箇所では「ゴルフは私の楽しみ:Golf is My Game」とコロンを使っていて,別の箇所では「ゴルフコースの設計;Golf Architecture」とセミコロンを使っている。
  • Royal Dornochの14番ホールを”「狐のような:Foxy」ホールといわれる”と訳出している。Foxyはホールのニックネームであって,「狐のような」と訳すべきではない。
  • Swinley Forestが「Swing Forest」になっている。
  • その他,単純な誤字・脱字が散見される。

本書が横書を横書きにしてコース名を日本語化しなかったのは評価できるが……。

内容

ドークの著書らしく,正統的で包括的な記述。時に「怖いもの知らず」とも思えるシャープな切り口。設計者として実務的な側面も十分カバーしており,ゴルフコース設計に関する本としての完成度は高い。当然ながら,イギリスのリンクスコースも十分にカバーされている。

ドークのゴルフコースに対する価値観は,「ゴルフコース設計のあらゆる局面で『多様性』が追求されなければならない」という一文に詰めこまれいてると思う。多様性とは,通常1コースに4つあるパー3ホールの向きをすべて変えるというのはよく聞く話だし,1ホールの中でもスキルレベルに応じて多様なルートがあるべきだというのもよく言われているが,ドークいわく例えば「アプローチの長さをいろいろ変えるばかりではなく,いろんなスタンスから発せられるいろんなショット(フェード,ドロー,ピッチ,ランニング)を要求するアプローチが用意されるべき」ということだし,オーガスタの前半9ホールは同じパー数が連続しない(4, 5, 4, 3, 4, 3, 4, 5, 4)としてもそれは数字だけからみた配列の問題ではなく,「難しい1番ホールから始まってやさしい2番,3番ホールが続き,4番,5番は難しく,次はまたやさしいくなる」という,内容のバラエティーが重要だという。Cypress Pointの後半9ホールのアプローチも細かく記述されており,そこには「多様性」があるのが確かに分かる。

783.8

ゴルフコースを解剖する : 設計の技術とコース攻略法 (ソフトサイエンス社): 1995|書誌詳細|国立国会図書館サーチ