漱石の『吾輩は猫である』の中での美学者・迷亭は,法螺話で人をかついでばかりの人物なのですが,それを読んで以来(つまりは14歳ぐらいのときから),「美学」というものがずっと気になっていました。
で,読んでみたこの本。そういえば同じ著者の『タイトルの魔力』(中公新書)を随分と前に読んだことがあるな,ということを,読んでいる途中に思い出しました。
その『タイトルの魔力』もそうなんですが,面白い視点を持って自由闊達に書く人だな,という印象があって,この『美学への招待』にしたって,「招待」といいつつも,きっと伝統的な「美学」に対するアプローチではないんじゃないかな,という構成です。
「あとがき」を読んで納得したのですが,「1日30枚,10日で新書1冊を書く」「この美学の入門書を,学説を紹介することなく,言い換えれば何も参照せずに,心の中にあることだけでつづる」「『です・ます』調で書く。口語体で自由に伸びやかに書く」という方針のもとで書かれたのが,この著作のようなのですね。
本当に何も参照せずに書かれたとすれば,なんとも博覧強記だな,という感想を持つほどに,いろんな話が広がっていくさまが面白いのですが,同時に「もっとちゃんとした入門書然としたものを読みたい」とも思います。そんな読者の信条を見越してか,巻末の文献案内がしっかりしているのも,嬉しいところです。
701.1