Dribs and Drabs

ランダムな読書歴に成り果てた

橋爪大三郎『正しい本の読み方』講談社(講談社現代新書)

まず出だしがうざい。

この本を手に取ったのは,現代のビジネスパーソンでしょうか。退職世代の皆さんでしょうか。それとも,学生さんかな? 『正しい本の読み方』という書名を見て手を伸ばした,あなた。これは,よい出会いです。なぜ手を伸ばしたのか,考えてみて。教養,学問,知……。一円にもなりません。でも,なしではまずいような気がする。なぜだろう?

なんだこの日和った文体は。

そして第一章「なぜ本を読むのか」,何言ってるのかちょっと分からない。個性がうんたらとかフロイトがうんたらとか,つまんないオヤジの人生訓のよう。

さらに第二章「どんな本を選べばよいのか」で,入門書を勧めながら,どういう基準で入門書を選べばよいのかという疑問に対し,

ここで参考になるのは,なんとはなしの,におい。著者が自身たっぷりか,おっかなびっくりか,とか。読後のスッキリ感とモヤモヤ感,とか。そういう,説明しにくい何か,ね。これがひとつ。

ってな感じで,論理展開が雑で,読むのをやめたくなる。このへんまでは。

第四章「本から何を学べばよいのか」は,有益。まず木下是雄『理科系の作文技術』(中公新書)の存在が知れたのがひとつ。もうひとつは,著者の思想の「構造」と「意図」と「背景」を読み取れという話で,カール・マルクスの『資本論』の場合は,デイビッド・リカードとの対立関係が背景としてあって,リカードは労働価値を仮説としているけれどマルクスはそれを実体として,国際貿易を扱わずに一冊貫いていると。じゃないと革命を正当化できないからだと。そしてマルクスの思想の背景にはヘーゲルがいると。あるいはレヴィ=ストロース。ユダヤ人であるレヴィ=ストロースは第二次大戦時にひどいめにあい,ヨーロッパ文明の病みを痛感する。それで人間の理性というものを遡って突き詰めて考えた結果が,『野生の思考』みたいなことになったと。そしてまた思想の背景として,本人は明言していないものの数学があると……。これらは蘊蓄としては面白い。

本書で面白かったのはここ(だけ)で,あとは与太話にしか感じられなかったなぁ……。

あ,ひとつ頷けるものがあったとすれば,「哲学・思想は何の役にたつ?」の箇所で,以下のように著者が述べているところ:

哲学は,人間が未知の課題に直面した場合は,最後に頼る拠りどころです。/未知の課題とは,どういう意味か。法律や,経済や,自然科学や,どこかの専門にすっぽり当てはまる問題なら,その専門で議論すればすむ。けれども,そうはいかない問題もあります。いくつもの専門にまたがる,多面的な問題,これまでの議論の積み重ねがなくて,考え方の筋道がわからない問題。

019.12

正しい本の読み方 (講談社): 2017|書誌詳細|国立国会図書館サーチ