抜粋
- 金融危機前は、バーゼル銀行監督委員会(BCBS),証券であれば証券監督者国際機構(IOSCO)保険であれば保険監督者国際機構(IAIS),これらがおのおの独立したかたちで、いろいろ基準設定を進めていた。
- 金融危機を踏まえて,いわゆる金融のグローバル化の中で,政治主導で物事を決めていくという傾向が非常に強くなった。G20で決まった内容を,上記3つの基準設定機関を束ねるFSB(金融安定理事会)が主体的に検討するというレジームの変更があった。
- 保険の基準設定を行なうIAISは,他の基準設定主体と比べて,少し特殊なところがある。それは,一定の会費を払えば,保険会社などの業界関係者などがオブザーバーとして,下位の委員会(小委員会)に参加できることになっている点。
- このオブザーバーシップは,財源問題から発生したもの。
- これにより,IAISは独立性に欠けるのではないかという批判がある。
- 2012年のロスカボス・サミット(メキシコ)でのG20首脳宣言で,「グローバルなシステム上重要な保険会社(G-SIIs)」の選定をして,その選定先に対する監督上の措置を2013年4月までに行なうようにという指示が出された。あわせて,2013年末までに,「国際的に活動する保険会社(IAIGs)」に対する監督上の共通の枠組みを作るべしという指示も出された。
- G-SIIsの当初選定先リストは,以下の通り:
- ドイツのAllianz,アメリカのAIG,イタリアのGenerali,イギリスのAviva,フランスのAxa,アメリカの MetLife,中国の中国平安生命,アメリカのPrudential Financial,イギリスのPrudential plc。
- G-SIIsの選定プロセスは,IAISによる「データ収集」「定量的評価」「監督上の判断・検証」という3つのプロセスを経て,最終的にFSBとIAISとの協議のうえで決定された。
- G-SIBs(グローバルなシステム上重要な銀行)の選定手法に対する,G-SIIsのそれの違いはふたつある:
- 定量的評価の指標に重みづけをしている点。
- 定性評価を行なった点。
- G-SIIsに選定された場合,以下の3つの政策措置が課される:
- 破綻処理可能性の向上。公的資金に頼らないかたちで破綻処理を可能にするような措置の検討。
- 監督の強化。監督当局者は,グループの持ち株会社に対し直接的な監督権限を持つことが要求される。
- より高い損失吸収能力の賦課。すなわち,資本の上乗せ。
- 銀行のバーゼル自己資本規制比率と異なり,保険会社の場合は国際的な資本基準がない。つまり,ベースがないのに上乗せを求められても,比較可能性が担保されない。これを解決すべく,「バックストップ資本」の策定が計画されている。
- 保険負債は保守的に積めば積むほど資本は薄くなるので,そのような保険会社はレバレッジ比率では非常に不利に取り扱われる可能性がある。
- 2010年の夏ごろは,IASBによる保険契約の公開草案の公表,G-SIIsの検討の開始,ComFrameの検討の開始がほぼ同時期に始まった。ソルベンシー2でも同時期にQIS5が始まり,日本でもリスク計測の見直し,あるいはフィールドテストの実施など,世界的なモメンタムがあった。
- ソルベンシー2では,さまざまな緩和措置が検討されている。
- 世界の保険市場において,日本は約13%(特に生保が大きい)。欧州は37%,アメリカは27%なので,いずれにとっても日本と手を組むことは非常に大事になってくる。
- カナダやオーストラリアは先進的な発想で規制を行なっているが,市場規模の割合が小さいので,取り上げられることは少ない。しかし,特にカナダなどの規制は,金融庁も注目している。
- 日本のように,死んだ後にお金を残したいと思う国民は世界にはあまりいないようで,生きているうちにお金が欲しいと思っている人たちが多いということが,世界的には一般的。
- 監督制度上,変額年金は,日本では保険商品として捉えられているが,アメリカでは純粋な投資商品として扱われており,監督もSECが行なうことになっている。
- 主要国の負債評価を「市場整合度」と「保守性レベル」という2軸で考えると,日本とアメリカは近い位置にあり,スイスとEUは近い位置にある。
- 日本の保険会社のリスク特性は,以下の通り:
- 規制上でモデルを使うといった場合,バリデーションがうまくいかないと,規制上の利用がかなり難しい。
ソース
https://www.actuaries.jp/member/fileview.php?file=/lib_file/5812.pdf
日本アクチュアリー会 会員専用サイト「ライブラリー」より閲覧可能。