「あとがき」で著者はこう述べます。
本書では,二つのことを問いかけた。一つは,日本国憲法と日米安保という,染料が戦後日本に残した遺産を総括することである。もう一つは,占領が日本を駄目にしたという論調に対する,違和感である。六年八ヵ月ばかりの占領で,日本および日本人は駄目になるほどひ弱で怠惰なのだろうか。それこそ自虐史観ではないのあろうかと。(p.347)
という割に,この著者の問いかけが前面に出てくることはなく,通奏低音のように文書を下支えして,記述は淡々とクロニクルに進められます。それが物足りないといえば物足りないし,しかしまぁこれはこれでいいんでしょうね。
知らないことばかりで大変勉強になりましたが,気づいたこと・分かったことは,
- 占領時はマッカーサーも頑張ったが日本人も頑張った。国民は耐えたし,政治家も民主化を推し進めた(非民主的思想の政治家はパージされたというのもあるが)。
- 新しい憲法の第9条は明らかに「非軍備」を意図していた。自衛隊(警察予備隊)の設立は,朝鮮戦争を契機になし崩し的に行なわれたものである。ということで,日本国憲法が「押し付け」かどうかはともかく,時流に合わせて憲法をアップデートしていくというのは,至極まっとうなことであると思う。し,「個別的自衛権」だからOKで「集団的自衛権」はNGというのも,なんともバイアスのかかったものの見方だと思う(細谷雄一『安保論争』筑摩書房(ちくま新書) - Dribs and Drabs)
- この時期,かなりの政党の変遷(分裂・合併)があった。「55年体制」といわれても全然ピンとこなかったが,確かにこうグチャグチャしてたのが,自由民主党・日本社会党・(日本共産党の再統一)にまとまったのは,大きな区切りとして認識されるべきものなのだということが分かった。
- 沖縄はたいへん悲しい運命をたどった。「サンフランシスコ講和条約が発行した四月二八日,日本から分離された沖縄は,この日を『屈辱の日』として記憶することになった。」(p.336)という一文は,なんとも象徴的である。
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