Dribs and Drabs

ランダムな読書歴に成り果てた

中澤渉『日本の公教育:学力・コスト・民主主義』中央公論社(中公新書)

内容的にちょっと肩透かし....むしろ「日本の公教育を検討・分析するためのフレームワーク」といったところで,概念的な話が多かった.

話としては,教育には正の外部性があるからそれに公的資金を入れることには一定の正当性があるよねっていうことと,民主政を堅持するためには有権者のリテラシーの向上が必要だからそこに教育の果たすべき役割の一端もあるよねっていうこととで,それは理解できる.

そして国際的な比較を行なった場合,日本は教育費用を私的に(つまり行政じゃなくて家庭から)賄う比率が比較的多く,そのことに対して著者は,

家族は,国家が先導する学校教育を支える役割を担わされる.〔...〕たとえば経済システム(労働市場)の要求に応える(よい就職ができる)ように,教育費をつぎ込み,習い事に勤しむ資源を家族が調達し,結果として現行の社会体制の要求に忠実な人間を育て上げる〔...〕シニカルな見方をすれば,意図しているか否かは別として,国家のような大きな体制が,家族の結合性を巧みに利用して社会統制を図っている(本人や家族は,国家権力の構造に組み込まれていることを自覚しないまま,権力の要求に自主的に従っている)とも考えられる.

を記している.このへん,今のコロナ禍での「自粛要請」みたいなことと重なる部分もある.

そうやって教育に私費をつぎ込むからこそ「その成果は自分(たち)で享受すべきでしょ」って考えになり,本来教育が持つべき正の外部性は意識されにくくなるっていう話もあって,確かにねぇ....

(しかしこういう面白い話は本の序盤でのみ出てくるのであって,あとは分析のフレームワークとかそういうのが主になるのであった)

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