私たちの多くは,常に自分の命に価格がつけられていることに気づかずに暮らしている。私たちの重要な決定の多くが,命の価値の計算あるいは評価の影響を受けていることに気づいてもいなければ,理解もしていないことが多い。
とか,
本書では,広範な例を使っていくつかの重要な点を説明していく。(1)人命には日常的に値札がつけられていること,(2)こうした値札が私たちの命に予期せぬ重大な結果をもたらすこと,(3)こうした値札の多くは多くは透明でも公平でもないこと,(4)過小評価された命は保護されないまま,高く評価された命よりリスクに晒されやすくなるため,この公平性の欠如が問題であること。
とか,とても面白そうなテーマなんだけど,なんで慶応義塾大学出版会みたいなマイナーな版元から出てるのかが不思議だったんだけど,分かった。イマイチなんだよ,この本。そう考えると,このやる気の感じられない表紙にも納得がいく。
えてしてこういうのって,自分の知ってる分野(僕の場合は「第6章 祖父のように死にたい:生命保険で命の値札はどう決まるのか」)で面白い・目を引くような記述があるかどうかで判断できるんだけど,それがなかったので,まぁ他の章でもそうなのかなと思っちゃう。
いや,確かに「広範な例」を使ってはいるんだけど,概念的な記述が多くて,数値を用いた具体例が少ない(ように感じられる)。著者がデータサイエンティストであることが疑わしくなるぐらい,数字が出てくるのが少ない。
たとえば政府の意思決定で費用便益分析が標準的に用いられていますよって話も,もっと面白く書けていいはずなんだけど,明確な基準に従うことになってますよってんで,
- 考慮すべき規制を特定する(規制しない/何もしないを含む)
- 誰に当事者適格があるかを決定する(誰の費用と便益を考慮する必要があるか)
- 測定指標を選択し,費用と便益の目録を作成する
- 長期的な費用と便益を数値的に予測する
- すべての費用と便益に金銭的価値を割り当てて,すべての影響を金銭換算する
- 時間的経過を考慮して費用と便益を割り引き,各費用と便益の現在の価値を取得する
- ステップ6の項目を合計することで,考え得るそれぞれの規制の純粋な現在の価値を計算する
- 感度分析を行う
- 推奨を行う
っていうふうに手順を紹介するのはいいんだけど,このあと少し噛み砕いた説明とか別アングルからのコメントとかが欲しいところなんだけど,これと同じノリで記述が続くから,だから飽きるんだよな。
そういえばいまこれを引用して気づいたけど,「現在の価値」じゃなくて「現在価値」じゃん?(コストとベネフィットを定量化して金銭化して,その将来CFを割り引いてPV出すってことでしょ?) なんか他の箇所でも少し翻訳でひっかかるところがあって,この訳者(南沢篤花),『ニヒリズムとテクノロジー』では気合いが感じられたんだけど,どうもこの本からは同じパッションが感じられないというか…。
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