著者の語り口がうまくて,415ページもあるのにどんどん読み進められる。理論とケーススタディーと引用(バフェットのがよく目につくけど)とのバランスが上手い。
主張は明確で,コロナ禍だろうとなんだろうと,企業に求められているのは「稼いで,もっと稼いで,それを永遠に続けること」だと言い切り,そしてタイトルにあるように「経営者はキャピタルアロケーションを考えなければいけない」と。
現場を離れて冷静に企業を分析すると,成功する経営とは,至極当たり前な話ですが,儲かることをやり,儲からないことはやらないことであることがわかります。優れた投資家が,将来性の高い企業に集中投資し,そうでない企業を素早く損切りするのと同じです。
著者の考えはシンプルに表現されていて,企業経営とは要するにキャッシュの「入」と「出」とのマッチングだと。「入」とはファイナンスで,内部調達(営業活動からのCF,資産・事業売却)と外部調達(負債発行,株式発行)があり,「出」とはキャピタル・アロケーションで,投資やM&Aや資本還元(配当,自社株買い,負債返済)があると。
このようにキャピタル・アロケーションとファイナンスのマッチングには様々なコンビネーションが存在しますが,個別案件のマッチングを上手に「やりくり」し,「出」を十分に上回る「入」につなげることができれば,会社全体のFCFが拡大し企業価値が創造されることになるのです。
しかし,バフェットが語るように,
多くの企業のトップはキャピタル・アロケーションが得意ではないが,彼らの能力不足は驚くべきことではない。多くのボスがトップに上り詰めたのは,マーケティング,製造,エンジニアリング,管理などの分野,時に社内政治に長けていたからである。CEOに就任した途端に,新たな責任(著者注:キャピタル・アロケーション)を負うことになる。(中略)結果として,数多くの賢明ではないキャピタル・アロケーションが米国企業では行われている」
ということで,「経営者こそ投資家」という視点が大事,ということなんだろうな。
しかしまぁ,この本は誰向けに書かれたものなんだろうというのを,ふと思う。経営者向け? アナリスト? 経営者視点に立って自らの経営層をディスりたい従業員? 実務家向けのハウトゥー風に書かれているところも散見されるけど,ほんとに実務家がこの本の内容を実務に活かすのかな?(著者としてはそうしてほしいんだろうけど)
各章末に「まとめ」が付されているのも,なんとも実務的かつ小慣れてていいですね。
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経営者こそ投資家である : 企業価値創造のためのキャピタル・アロケーション (日経BP日本経済新聞出版本部): 2020|書誌詳細|国立国会図書館サーチ