Dribs and Drabs

ランダムな読書歴に成り果てた

木村正俊『スコットランド通史:政治・社会・文化』原書房

日本人が書いたスコットランドの歴史を読む意味があるのかとか,この著者が監訳したというT・Cスマウト『スコットランド国民の歴史』(原書房)なる本がある中でこの本の存在意義はどこにあるのかあとか,読む前はネガティブな感情しかなかったけど,読みはじめたら面白くて飽きずに最後まで読めた。

スコットランド国内には「ローランド対ハイランド」という構図があり,グレートブリテン島内には「イングランド対スコットランド」という構図があり,そしてドーバー海峡を挟んで「イングランド対フランス(+スコットランド)」という構図があるという,なんともややこしいところに位置しつづけてきたのがスコットランドであって,だからこそその歴史にも外野にとっては面白く,当事者にとってはたまったもんじゃないだろうという気がする。中盤はほとんど(スコットランド国内外における)戦闘の歴史であって,まぁそりゃー国も発展しないだろうなという感がひしひしと。

そして傍目には謎としか思えなかったスコットランドとイングランドとの議会合同についても,そのいきさつが丁寧に記述されており,納得できた。いろいろと文脈がある中で,最後に引き金を引いたのが「ダリエン計画」なる要するに投資計画の失敗で,それが多くの投資者に貯蓄を失わせ,イングランドとスコットランドの双方に大きな影響を与えたというのが,なんとも下賤で面白い。

そしてそんなスコットランドからヒュームやスミスやワットのような知性が花開いたのも不思議だったんだけど,

スコットランドで啓蒙運動が高まったのは,イングランドとの合同によって生じた「権力の真空状態」と関係があるだろう。合同のあと,広い領地をもつ政治家や有力な貴族たちがスコットランドに見切りをつけ,一斉にロンドンに居を移したため,スコットランド人は置き去りにされた意識を抱いた。しかし,その敗北感に埋没することなく,むしろイングランドへの対抗心をもってスコットランドにとどまり,自国の学術や芸術の伝統を守ろうとする人も多かった。居残ったのは,法曹界や教会,大学などの関係者で,それらの人々がスコットランド啓蒙を牽引した。

ということなんだそうである。

しかしまぁ,読むにつれて懐かしい地名がどんどん出てきて,またスコットランドに行きたいという気持ちが大きくなった……。

ああそうだ。本書の終盤で2箇所,「プレグジット」という語が出てくるけど,この類の本としては決定的なミスじゃないかね。Brexit……。

233.2

スコットランド通史 = A History of Scotland : 政治・社会・文化 (原書房): 2021|書誌詳細|国立国会図書館サーチ