Dribs and Drabs

ランダムな読書歴に成り果てた

竹田青嗣『ニーチェ入門』筑摩書房(ちくま新書)

久しぶりに読んだけど,文章の切れ味がいいんだよね,この本というかこの著者。たとえば『悲劇の誕生』に関して,

まずはその実質的なモチーフはつぎのようなことになる。「いまや現代ドイツに真の芸術的天才が現れた。それこそワーグナーである。ワーグナーの音楽が体現するのは〈ギリシャ悲劇〉の精髄にほかならない。ではこの〈悲劇〉とはどういう概念か?」と。ワーグナーの音楽の現代的意味は何か。それが真の意味で「悲劇」の概念を体現することにある。ではギリシャ悲劇における「悲劇」の概念をもう一度考えなおしてみよう。実際の記述はすこし違うが,ニーチェの思考はそういうかたちで進む。そして,このニーチェの「悲劇」の概念の核を支えるのがショーペンハウアーの哲学なのである。

なんというか,この圧倒的な「分かった!」感が気持ちいい。

で,ニーチェの『プロメテウス』解釈としては,「人間はその欲望する本性によってさまざまな矛盾を生み出してしまう存在だが,それにもかかわらずこの矛盾を引受けつつなお生きようと欲する。まさしくここに人間存在の本質がある」ということになる。*1

いずれにしろ,『ニヒリズムとテクノロジー』を読んだおかげでこの本の内容がすんなり入ってきたというか,逆にいえば『ニヒリズムとテクノロジー』はニーチェ思想のサマリーとしてよくできているということでもあろうんだろうけれど,本書の前半部ではニーチェがショーペンハウアーから受けた影響についてもよく分かったし,『反時代的考察』に対する「ルソーの人間(自然へ帰れ,「本来的なもの」への激しい憧れ)からゲーテの人間(過激なロマン主義興奮の「鎮静剤」)を経てショーペンハウアー的人間(人間の自己自身に対する「誠実」の能力)という構図の示し方も面白かった。

「永遠回帰」のところは,正直言ってよく分からないなー。

さて,そろそろニーチェの著作を読むべきか……。「体系性からいってもその密度からいっても群を抜いている」という『道徳の系譜』からかな。

134.9

ニーチェ入門 (筑摩書房): 1994|書誌詳細|国立国会図書館サーチ

*1:「プロメテウス」といえば朝日新聞の『プロメテウスの罠』を思い出すんだけど,あれってきっと,「人間は人間の力では制御できないものを作ってしまったぜー」ってスタンスなんでしょ。それってこのニーチェ的な解釈とは逆方向だよね。