Dribs and Drabs

ランダムな読書歴に成り果てた

小泉悠『現代ロシアの軍事戦略』筑摩書房(ちくま新書)

前から気になっていた本書だが,今のウクライナ侵攻によって俄然注目を集めている,と思う。「職業的オタク」を自認する著者による,現代ロシア軍のオタク的側面ーー兵器,軍事組織,戦術,戦略に主なフォーカスが当たっていて,その随所から〈ロシア的な精神性〉のようなものが透けて見える。思うのは,キューバ危機のときも西側とソ連との思惑のすれ違いーーミラーイメージングーーがあったけど,今でもそれは確かにあって,つまり西側は〈攻撃〉と思っていないものでもロシア側は〈攻撃〉と思っていて,だから一方的な〈侵攻〉のように西側には見えるものでも,ロシア側のロジックでは〈反撃〉になるとか。まぁそう理解したところでロシアがいまウクライナでやっていることが正当化されるものではないのだが。

最後の方で「ロシアは思想の国」で「この点は軍事の領域においても同様」という記述が出てくるが,確かにロシアの想像力・創造力には独特のものがある。いちばん興味深かったのは,軍事科学アカデミー副総裁のウラジミール・スリプチェンコの議論というかビジョンで,

PGMとICTの組み合わせは非接触戦争の序の口に過ぎず,21世紀の半ばには,地球の気象を操作して豪雨や地震を引き起こしたり,オゾン層に穴を開けたりする「攻撃」が可能になるというのでる。さらにスリプチェンコは,超低周波の音響による人間の感情のコントロール,遺伝子技術によって特定の人種だけを狙う生物兵器,情報のコントロールによる敵国領土内での暴動・虐殺の惹起などが将来の戦争では主流になるというビジョンを提示している。

とかいうやつで,こういうイマジネーションは,保険会社がエマージングリスクとかストレスシナリオとかを考えるときの参考になるんじゃないですかね……。

392.38

現代ロシアの軍事戦略 (筑摩書房): 2021|書誌詳細|国立国会図書館サーチ