とりあえず上巻を読了。
サブタイトルで〈内部からの崩壊〉っていってるのの最たる例はドナルド・トランプ(を大統領に選出するに至ったアメリカの分断・選挙制度・政党の党派性の強化等々)で,〈専制国家からの攻撃〉っていってるのはロシアと中国がいわゆる〈シャープパワー〉を使っていること。本書いわく,2016年のアメリカ大統領選挙にはロシアからのあの手この手の干渉があり,それがなければヒラリー・クリントンが当選した可能性が高いらしいので,前者と後者は密接に絡んでいるのだが。前者の例としては他に,イギリスのUKIP――ナイジェル・ファラージでおなじみ――もロシアからの資金援助を受けているんだとか。
この本を書こうと思ったのは,単にドナルド・トランプの当選がショックだったからというだけではない。彼の大統領就任が世界中の民主主義にとって何を意味していたのかという,苦悩に満ちた知識を持っているためである。
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哲学者たちは慈悲深い独裁者を賞賛するかもしれないが,個人が発言し,出版し,考え,祈り,集会を開き,風刺し,批判し,本を読み,インターネットで検索をする権利を抑圧することに,慈悲深いことなど何もない。権威主義を擁護する者は,人々には秩序を享受する権利があると主張するが,法の支配がなければ,支配者だけではなく,被支配者だけが制約を受けることになる。この種の「秩序」は,あまりにも容易に僭主政治に陥り,拷問,恐怖,大量投獄,大量虐殺といった最悪の結果をもたらす。
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最近の政治学は,子の分野を科学として捉えたがり,政治的な結果を形成する上で指導者が果たす役割を軽視しがちである。しかし,民主主義をもたらし機能させるのは,抽象的な経済・社会の力ではない。主張を展開し,プログラムを策定し,組織を形成し,戦略を練り,人々を動かすのは,個人――普通の,そして並外れた市民――なのである。
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偉大な社会民主主義の哲学者シドニー・フックは,〔中略〕民主主義を機能させるためには,「自らの指導者にたいする知的な不信感」が必要であると述べている。そして「権力の拡大を求めるあらゆる要求に対する」厳重な疑念や,「教育や社会生活のあらゆる局面で批判的な方法に重点を置くこと」が必要であると論じる。彼はさらに,「懐疑主義が,無批判な熱意と,社会の複雑さゆえに生じる多面的な神格化にとって代わられるところでは,独裁のための肥沃な土壌が用意されているのだ」とも記している。
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ロシア,中国,ししてイランのような権威主義国では,軍事力や経済的強制力といった昔ながらのハードパワーとは異なる手段で自国の意志を他国に反映させようとする場合,ソフトパワーとはかなり異なる方法を用いている。今日の独裁者たちは,民主主義の信用を落とし,影響力のある声を堕落させ,情報の流れをコントロールし,好ましくない報道を検閲し,批判者を威嚇するために,富,裏工作,欺瞞,陽動をますます利用するようになっている。彼らは魅了よりも否定によって思考を形成しようとしている。これは「魅力攻勢」ではなく,目に見えにくく,腐敗した,悪意のあるものである。
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ロシアの問題は,かつての超大国の怒り,不安,恨みにどう対処するかであり,中国の問題は,新たな超大国の野心,尊大な態度,そして過剰な行動にどう対処するかである。
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TPPは,経済統合を進め,優れた労働基準や環境基準を提供しただけではない。中国の重商主義ではない透明性の高いルールに支配されたアジアの新しい経済・政治秩序を構築するための戦略であり,しかも,アメリカの重要な指導的役割を維持するものだったのである。トランプ大統領によるTPP離脱の決定は,第二次大戦後にリベラルな世界秩序が形成されて以来,アメリカのグローバル・リーダーシップにとって最も痛ましい自傷行為であった。
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