Dribs and Drabs

ランダムな読書歴に成り果てた

大嶽秀夫『ニクソンとキッシンジャー:現実主義外交とは何か』中央公論社(中公新書)

「現実主義外交とは何か」について,著者は冒頭でこう要約する.

国際政治については日本人も,それが熾烈な競争の場であり,各国が自らの利益を追求する中で諸外国との厳しい交渉,場合によっては不意打ちや抜けがけをよすルウなど,油断のならない世界であることを認識するに至っている.ところが国際「政治」の場では,今なお,平和主義,モラリズムが万円し,「信頼」や「協調」といった言葉が頻繁に語られる.さもなければ善悪二元論に立った排外主義が幅をきかせている.国際政治は人々が考える以上に複雑な世界であり,各国の利害が錯綜し,完全な善というものもないし,完全な悪というものも存在しない.そして外交交渉は,笑顔を交わしながらテーブルの下で足をけり合う場所である.それを冷徹に見,その中で国益の追求と国際秩序の安定を求めるのが,「現実主義外交」というものである.

要約であり,しかも,国際政治というものに対する「お花畑的思考」に対する著者の苛立ちもここには感じられる.

ニクソンとキッシンジャーはその「現実主義外交」の好例であり,しかもニクソンはウォーターゲート事件の印象(だけ)が強いだろうけど外交に関してはすぐれたセンスを持っていた政治家だったんだよ,というのがこの著者のスタンスである.確かにその印象しかなかったです.

本書は五章からなっていて,

第一章 ニクソン・キッシンジャー外交の基盤 第二章 ニクソン大統領の対ソ戦略――戦略兵器制限条約(SALT)への道 第三章 米中和解――ソ連と日本の脅威を梃子に 第四章 ヴェトナムからの撤退――中ソ対立の狭間で 第五章 「ネオリベラル・ポピュリズム」と「ナショナリズム」

第二章から第四章が具体例.第一章が概要というか概論で,ニクソン・キッシンジャーのなしたことをまったく知らない(僕のような)人間にとっては,抽象的に感じられる.まぁその具体例があとに続くからいいんだけど,こういう構成にせざるをえないかな.第五章はニクソン自身にフォーカスする.

ニクソンを肯定的に再評価する(ためのベース)というのが本書のスタンスだと思うけど,しかし「後書きに代えて」の最後で,

結局のところ,アメリカは,インド・パキスタンの戦争を混乱させただけに終わった.大国主神の破綻を示すものであり,地域紛争を米ソ中の陣取りゲームの枠組みで見る,ニクソン・キッシンジャーの国際認識の限界であった.

としっかりオチをつけるあたり,現実主義外交を語る政治学者の冷徹な視線が感じられて好感が持てた.

319.53