下巻も読了。上巻はビッグピクチャーを描いていたのに対して,下巻は細かい処方箋――特にアメリカにおいて民主主義を回復するための――といった様相を呈してくる。ちょっとそれが理想主義的に見えてくるんだけど…。
たとえば,ロシアと中国にどう対処するかという話で,「かつて,先見の明を持ったアメリカの外交官ジョージ・F・ケナンがモスクワから送った有名な長文電報は,七十年後の今でも不気味なほどに重要性を保っている」といい,つまりそれは要約すると,
- 脅威の本質を把握する必要がある。
- 専制支配者の脅威が持つ規模,動機,要素について,民主主義しゃかいを教育しなければならない。
- 中国とロシアによる軍事力の急速な拡大と近代化を受け,民主主義国は軍事的決意と能力を集団的に強化しなければならない。
- ロシアと中国の指導者と社会に,敬意を持って接するべきである。
- 可能であれば,腐敗した指導者を社会から切り離し,慎重にターゲットを絞った手段で専制的な政権を抑止すべきである。
- 民主主義の価値に忠実であり続けなければならない。
- 戦後の自由民主主義秩序を今の時代にあわせて再構想しなければならない。
- 自国の民主主義を修復・強化し,他国にとって模倣に値するものにしなければならない。
とのこと。こういうマクロな話と,逆にミクロで具体的な話――マネーロンダリングを防ぐためにどうしたらいいかとか,あるいはアメリカの選挙制度を適切なものにするためにはどうしたらいいかといったこと――とが混在しているのが,下巻の特徴である。
いずれにしろ,著者にとってはトランプ大統領という存在が民主主義に対する脅威であり,それが本書の通奏低音になっているといことを,著者は隠そうとしない。
ドナルド・トランプの大統領就任という災難に明るい兆しがあるとすれば,次のようなものである。今,われわれは,ありうべき未来を垣間見ているのだ。トランプは,最も親密な民主主義の同盟国を侮辱し,NATOを弱体化させ,EUの崩壊を促した。地球温暖化防止条約,イランとの核取引,そしてTPPからもアメリカを離脱させた。敵味方を問わず無意味な貿易戦争を始めた。ウラジミール・プーチンをはじめとする残忍な独裁者たちを容認し,親密に接する。偏見の強い国内外の移民排斥主義者たちと大義名分を共有する。そして,「アメリカ第一主義」という古く,やっかいで思わせぶりなスローガンを復活させている。こうしてトランプは,第二次世界大戦後のリベラル秩序の道徳的・精神的支柱をことごとく揺るがしている。しかしこれらは,アメリカのリーダーシップと不屈の精神がなければ,世界はどのようになるのかを知るチャンスなのである。
要するに著者は「アメリカしっかりせい」ということを言いたいわけで,こんなことも言ってる:
- アメリカの道徳的・地政学的リーダーシップ,すなわち,民主主義的規範の擁護,民主的な政府や運動への支援,自由貿易と広範な経済発展への支援,侵略を抑止し抑圧を非難する意思などが,民主主義拡大の波を世界中に波及させたのである。
- 世界政治において理想は重要であるが,力も重要である。アメリカは,欠点や不手際はあるものの,力と権利の両方を融合させて民主主義拡大のための空間を作り出した稀有な大国である。第二次世界大戦後には,アメリカの強力で確固とした規範があったからこそ,ヨーロッパの民主主義国やアジアの多元的な国々が,ソ連や毛沢東主義の中国,そしてそれらの後継である独裁国家と手を組むことはなかった。アメリカの力,存在感,そして原則を取り除いてしまうと,アジアのほとんどの国は,アジアで台頭する中国帝国という勝ち馬に乗ろうとするであろう。
イラっとさせられる文章であはるが,これが真実なんだろうな。
311.7