Dribs and Drabs

ランダムな読書歴に成り果てた

ジェームズ・スロウィッキー『群衆の智慧』KADOKAWA(角川EPUB選書)

『「みんなの意見」は案外正しい』角川文庫(2009)の改題,修正。

原タイトルは『The Wisdom of Crowds』だから『群衆の智慧』の方が近いんだけど,でも見覚えがあったタイトルが変えられて,ちょっと残念。

肝心の内容だが,〈群衆の智慧〉っていってもいろんなレベル感とか様相があるよな,という印象。例えば最初の方にあるような「ガラス瓶の中に入ったジェリービーンズの数を教室にいる学生たちに当てさせると,学生たちの答えの〈平均〉がけっこう正解に近い」ってやつは,〈仕組みはよく分からないけどエラーが打ち消しあって結果的にうまくいく〉というパターン。そこから組織論みたいな話も出てきて,これは『多様性の科学』*1に通じるものがあるけれど,それに比べると記述は短く表層的かなと思う。あと第2部で,〈渋滞〉とか〈民主主義〉とかの関連しそうなトピックがパラパラと出てくる,といった感じ。ずっと読もうと思っていた本なので期待していたけれど,ちょっとなー(深みに欠けるというか,〈概念→ケース→実験〉っていう記述のパターンに飽きるというか)。

いちおう本書のポイントとしては――『多様性の科学』と同じだけど――,「群衆の智慧を活用するには,集団を構成するメンバーの多様性,独立性,それに分散化が備わった集団に加えて,集団のメンバー個々の意見を一つに集約する仕組みもなければならない」(訳者あとがきより)。

あとこの日本語版について。訳者あとがきで述べられているけれど,

なお,原著には多数の興味深い具体的事例が紹介されていたが,日本の読者にはあまり馴染みのないアメリカの国民的スポーツのフットボールを詳細に取り上げたくだりや,実感が湧きにくいと思われる隠喩などは,編集部と相談のうえ割愛した。

っていうの,ひどくないか? 本当に〈相談〉なのか実際には〈編集部からの指示〉だったのかはしらないけど。あと参考文献リストもない。KADOKAWAの底が知れる。

361.44(これ,「グループダイナミクス」っていうカテゴリーらしい。そういうのがあるんだな……)

群衆の智慧 (KADOKAWA): 2014|書誌詳細|国立国会図書館サーチ