Dribs and Drabs

ランダムな読書歴に成り果てた

マシュー・サイド『多様性の科学:画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織』ディスカヴァー・トゥエンティワン

非常に示唆的であった。「なぜ多様性が重要かというと,多様性のあるチームの方がいいチームになりうるから」ということが,よく分かった。もちろん,多様性さえあればいいかというとそうではないのだけど,そのへんも含めて,最初の方に出てくる4つの図を見ると直感的に理解できる。

著者の言葉でまとめると,本書は「CIAの大失態,エベレスト山頂でのロブ・ホールの勇敢な行動,キャスター付きのスーツケースの数奇な歴史,政治的なエコーチェンバー現象などさまざまな題材を取り上げ」,また,「イノベーションを起こすには頭の良さよりも社交性がポイントになることについても考察」している。さらに「食事療法の矛盾や,1940年代末の米空軍における航空機事故などの事例を通して,平均値にとらわれると個人が見えなくなる怖さも見」ている。「どの問題もみな,指し示しているものは同じ」で,それは「多様性の力,もしくはそれを軽視する危険性」であり,「組織や社会の今後の繁栄は,個人個人の違いを活かせるかどうかにかかっている」という。

その食事療法というのが個人的にはいちばんの目から鱗で,要するに番人に効果がある食事療法というものはないと。白いパンと全粒粉パンをとっても,ある人にとっては前者が有害で後者が無害,しかし別の人にとってはその逆ということもありうるわけで,そこで「平均的には〇〇がいい」というのは意味がないと。

あと面白かったのは,スティーブ・ジョブズがピクサーのデザインを考えるときに,トイレを1か所だけにすると決めたと。もちろん非効率だけど,そのおかげで偶然の出会いが起こり,第三者の視点を得るチャンスが増えるのだと(こういうエピソードがまたジョブズの神話性を高めると思うんだけど)。

あと本書で素晴らしいのは,参考文献をいっぱい挙げてくれている点。邦訳されているのも多いので,また読みたい本が増えるという嬉しい悲鳴……。

141.5

多様性の科学 : 画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織 (ディスカヴァー・トゥエンティワン): 2021|書誌詳細|国立国会図書館サーチ