『多様性の科学』で引用されていた本。1996年5月にエヴェレストで12人と登山者が遭難死した事象を克明に記録したもので,『多様性の科学』では強すぎるリーダーシップが悲劇を招いた例として紹介されていたが,実際はそのような単純なことでなかったのがよく分かる。
そこには,困難に挑みたい登山者たちの習性があり,困難だからこそ挑みがいがあるという価値観があり,世界最高峰エヴェレストだから多くの人を引き寄せるという事実があり,「ガイド登山」というビジネスがあり,必ずしもエヴェレスト登頂に万全の準備ができていなくても登れる/そういった人たちでも登らせるという事実があり,外貨獲得のために登山者を制限するインセンティブが薄い裾野の国々があり,ガイド登山のリーダー同士でのライバル意識があり,リーダー自身の過去の経験に基づく判断――過去に失敗したから今度は成功させたい/過去成功したから今回も大丈夫だろう――がある。
著者のジョン・クラカワーは,自身もクライマーでありながらライターの仕事もし,ガイド登山の実態を取材するためにこの登山に参加していた。自身はなんとか登頂し下山し,しかし多くの仲間を失ったということで,この渾身の著作――多くのインタビューを重ね,裏取りをし,丹念に描写する――ができた。そこには贖罪の意識もあるだろうし,自らの気持ちに整理をつける意図もあっただろう。
残念ながらいくつか誤植や誤字があり,
- p.327。「固定ロープ」の「ロ」が「口(漢字のクチ)」に,「ー(音引き)」が「―(全角ダッシュ)」になっている。
- p.382。「エヴェレスト」が「エヴェレズト」になっている。
292.58