Dribs and Drabs

ランダムな読書歴に成り果てた

アダム・ガリンスキー, モーリス・シュヴァイツァー『競争と協調のレッスン:コロンビア×ウォートン流組織を生き抜く行動心理学』TAC出版

それなりに面白い内容だけど,本としての〈底の浅さ〉をどうしても感じてしまう。考えられるその理由は,

  1. 邦題のごてごてしたサブタイトル。原題は『Friend and Foe: When to Cooperate, When to Compete, adn How to Succeed at Both』で,主題と合わせて頭韻を踏んでいるし,気が利いている。もちろん,〈競争と協調〉はうまいこと訳したなと思うけど。
  2. 参考文献が載っていない。原書にはあると思うんだけど……。たとえば『サピエンス全史』から引いたと思われる記述があるけれど,ソースがまったく示されていない。
  3. 本文中の強調する箇所が〈太字&茶色の傍点〉になっている。原書ではどういう扱いになっていたら知らないけれど,資格試験参考書のようだ――TAC出版 的とでも言おうか。
  4. 行動心理学的な話が手を変え品を変え出てくるけれど,それと〈競争と協調〉との関連性が薄いのがたまに出てくる。
  5. 冒頭でペルーのフジモリ元大統領の話――日本大使館に武装勢力が押し入り,フジモリは柔和に交渉する姿勢を取りながら,裏では強固な突破策を準備していた――が出てきて,それが〈競争と協調〉の両方が大事だよっていう例として挙げられているが,そのあとで出てくる話とこのフジモリのエピソードとが,話のレベル感で食い違っている感がある。
  6. 知っている話――たとえば組織内で序列があるゆえに悲劇を生んだエベレスト登山隊の話――が出てくるけれど,先に読んだ本の中での記述に比べると本書内での記述は表面的。
  7. 各章末で具体的なレッスン・指南が出てくるけど,それが現実味に欠けるというか〈お花畑〉に思える箇所がある。たとえば〈人間は自分を他人と比較せずにはいられない〉という内容を受けて,「その比較が適切なものかどうかを見きわめることだ」とか「ライバルに負けたからといって傷口をなめているのではなく,自分の足でもう一度で立ち上がることだ」とか,それができないから難しいんでしょっていう。

っていうところかなぁ。

一方,面白かった話としては,

  • 妊娠した妻を持つ夫はけっこうな確率で体重が増える――〈疑妊症候群〉という診断名もあるらしい。これは,自分を他人とは比較せずにはいられない人間の本性によるらしい。
  • 自然界でも強い種ほど視野が狭い。ここでいう〈視野が狭い〉は物理的な話で,たとえば捕食動物は目が顔の正面にあるけど,獲物となる動物は目が顔の側面についていることが多いということ。しかしそれは象徴的な意味もあり,人間界でも「強者は他人の存在をあまり意識していない」。
  • 母親の子宮内で多くのテストステロンを浴びると,薬指が人差し指より長くなる。こういうタイプの人間は,「自分が低く見られることに我慢できないということが調査でわかっている」。
  • 「自制心の筋肉は一つしかない」。それは,疲れる。「自制心を使い果たした人は嘘をつく傾向が高くな」る。

140.18

競争と協調のレッスン : コロンビア×ウォートン流組織を生き抜く行動心理学 (TAC株式会社出版事業部): 2018|書誌詳細|国立国会図書館サーチ