Dribs and Drabs

ランダムな読書歴に成り果てた

松尾匡『新しい左翼入門:相克の運動史は超えられるか』講談社(講談社現代新書)

どこでこの本を知ったのか覚えてないし,この著書の口調(なんだかなれなれしい)も好きじゃないんだけど,最後まで読み進めてしまった.

とりあえずここでは「左翼」とは

世の中の仕組みのせいで虐げられて苦しんでいる庶民の側に立って,「上の」抑圧者と闘って世の中を変えようと志向する人々

と定義されていて,その人達がこれまでどう相克,つまりは仲違いしてきたか,というのを描いている.その仲違いの典型は,著者の言葉を用いれば「嘉顕の道」と「銑次の道」というふたつがあって(これは昔の大河ドラマの登場人物から名前をとっているんだけど),要するに,前者が欧米由来の概念(自由とか人権とか)を持ち込んで講釈を垂れて大衆を変えていこうとする方向性,後者が大衆と一緒になって「コノヤロー」ってノリで運動を起こしていく方向性ということなんだけど,どのどちらにも悪い点があって,

  • 「嘉顕の道」......現場の個々人の暮らしや労働の事情から遊離して,理論や方針を外から有無を言わさず押し付けて,現場の個々人に抑圧をもたらす.
  • 「銑次の道」......他集団のことを考慮に入れず,外部に害となる集団エゴ行動をとったり,伝統的因習に無反省でメンバーを抑圧したり,小ボスによる私物化が発生したりする.

とのこと.こういう分裂の動きは,日本で社会主義運動が始まった当初から起こっているし,二派に別れたところでまたそれらの中で思想が純化して同様な分裂を繰り返す......ということで,どっかで聞いた話というか,現在の日本で野党の政党がいっこうにまとまる気配がないのも納得できたというか.......

そういうのをレーニンは『共産主義における左翼小児病』の中で「同じ思考の少数者だけで群れて革命的なことを言いあって自己満足してても,何も世の中変わらない」と喝破しているらしいんだけど,まぁずっとそうなんだろうな(縮小再生産する一方の左翼).

豆知識.

ちなみに,生協でも労働組合でも学術文化的な団体でも,今だに大会での採決を,「反対」「保留」「賛成」の順番でとっているところが少なくありませんが,これは異論を表明しにくくするためにとられたスターリン主義由来の手法なので,いいかげんやめた方がいいです

とのこと.

あ,あと面白かったのは,「日本共産党という組織は,宮本顕治というカリスマに合わせて作られていると言えるかもしれない」「カリスマの個性に依存する組織」なんであって,だから「どんなに頭脳優秀ではあってもしょせんは普通の人間である不破さんや志位さんには,手にあまるのだと思」う,とのこと.

いや,僕自身は「左翼」ではまったくないと思ってるんだけど,この本のせいで,もっと知りたくなってきたぞ....

309.021