Dribs and Drabs

ランダムな読書歴に成り果てた

日本再建イニシアティブ『現代日本の地政学:13のリスクと地経学の時代』中央公論社(中公新書)

独立系シンクタンク「日本再建イニシアティブ」による著書で,中公新書からは『民主党政権 失敗の検証 - 日本政治は何を活かすか』に次ぐもの。地政学に対する自分の興味が強まっている中で(地政学について知りたい - Dribs and Drabs),「現代の」「日本にかかわる」地政学的イシューを俯瞰できたのは良かった。

「もともと国家が行う政治的行動を,地理的環境,条件と結びつけて考える学問のことをいう」(p.2)地政学に加えて,本書ではそのサブタイトルにもある「地経学(geoeconomics)」,つまり「地政学的な利益を,経済的手段で実現しようとする政治・外交手段のこと」(p.4)的な観点も前面に出している。

中国の「一帯一路」戦略について概観できたのも良かったし,TPPを地経学的側面(「我々がルールを作らなければ,中国が地域(アジア)でルールを確立してしまう」というバラク・オバマの発言に象徴される)から再認識できたのも良かった。

ひとつ,ウンチクとして面白かったのが,こちら。

ロシア語には,「安全(security)」という言葉はない。「危険が無い(bezopasnost')」という表現があるだけだ。ロシア人は,相手との関係で生じる「危険が無い状態」に対する感覚が非常に敏感で,「安全」という心安らかな積極的な概念は持ち合わせていない。たとえ何らかの方法で「安全」が確保されたとしても,いつかそれは壊れるかもしれないと,常に怯える気持ちが根底にある。それがロシア独自の過剰な国防意識につながっている。(pp.86-87)