Dribs and Drabs

ランダムな読書歴に成り果てた

高山明『テアトロン:社会と演劇をつなぐもの』河出書房新社

このツイートだけがきっかけで手に取って読んでみたけど,非常に面白かった。ここに書かれているのは徹頭徹尾「演劇」の話だし,自分なんてむしろ「演劇」を毛嫌いすらしている(あの劇場の閉鎖感とか「内輪受け」な感じとか)んだけど,それでも面白かった。

いや,あいちトリエンナーレ2019の話から始まり,クレームを受け付ける「Jアート・コールセンター」の話になり,「いや,これって演劇の本じゃなかったのかよ?」という疑問が自分の中に湧いてきて,謎の題名の意図もなかなか明かされず,追い打ちをかけるようにブレヒトの「教育劇」や,大阪万博における綜合警備保障と「ダダカン」の話が出てきて,だんだんイライラが募ってきたところでギリシャのディオニュソス劇場の話がでてきて,そこで「テアトロン」の話が出てきて,そこでようやく本を読んでいる自分の中で話がつながってくる。

要するに,「シアター」の語源である「テアトロン」は劇場の客席部分を呼ぶものであり,「見物する場所」を意味すると。「テア」というのは「観る」ことだから,観るという振る舞いが演劇の中心にあると当時(古代ギリシア)の人は考えていたのだろうと,著者は言う。そして「市民が」作られるのも劇場だったと。そうやってかつては共同体を形成する場所だった劇場/演劇が,いつしかハコの中だけのものになり,社会に対する影響を失ってしまった。しかしあいちトリエンナーレの問題は意図せずして芸術祭が現代社会に対して剥き出しになった現象で……ってな感じで,「第1部 『Jアート・コールセンター』についての演劇的考察」は幕を閉じる。(題名の謎解きがなかなか出てこなくてイライラって書いたけど,実は最初の最初に頭出しはされてた。

θέατρον 見る場所,転じて,①劇場,②(集合的に)観客,③見世物

で,第1部で著者(の理知的かつ現場的なアプローチ)に十分に興味を抱けたところで,第2部は著者の自分語りと,自らの演劇観に紐づけるかたちでの演劇史(ギリシア悲劇とワーグナーとブレヒト)。全体と局面での構成が上手いのは,さすが演出家といったところかね。

770.4

テアトロン = θέατρον : 社会と演劇をつなぐもの (河出書房新社): 2021|書誌詳細|国立国会図書館サーチ