Dribs and Drabs

ランダムな読書歴に成り果てた

A・S・バーウィッチ『においが心を動かす:ヒトは嗅覚の動物である』河出書房新社

意欲的な本であり,嗅覚に関して全方位(神経科学,分子生物学,遺伝学,化学,心理学,認知科学,哲学の発展,香料製造やワイン醸造の専門知識)から迫っているのだけど,いかんせん読みにくい。

はしがき冒頭の

嗅覚は,いくつもある感覚のなかの継子である。昔から目立ってひどい扱いを受けている。

という一文から嫌な予感がしてて,「ひどい扱い」を描写するのに「継子」って表現いる? それがひどい扱いをされるってのは分かるんだけど,嗅覚は感覚の中で血のつながらない子供なの? みたいな。要するに著者の気合いが空回りしているんだろうけど。

あるいはこんな文。

嗅覚を理解しようとしする私たちの試みに欠けているものが,歴史的記録からわかる。それは怠慢の露呈だ。いまだに不足しているのは生物学からのアプローチ,つまり,においに意味を与える感覚系から始まる体系的研究である。過去の嗅覚の探求はたえず,有形の基盤としてにおいを発する物体に重点を置いていた。いまもなお,知覚効果の定義にたどり着くために,においの物理的刺激の特性から始めるのが一般的だ。〔…〕過去のパターンはともかく,いまこそ,このアプローチの真の進歩を再検討し,そのような物体中心の嗅覚観にもとづく前提を評価し直すべきときだ。そのために現代の知識の様相を,それが過去に出現した経緯を通して再考しよう。

いや,ちゃんと読めばわかるんだけど,なんかすんなり入ってこないというか…。原文のせいなのか翻訳のせいなのかは分からないけれど。

確かに嗅覚が難しいのは分かる。測定も分類も記述も難しいのは分かる。でもそれを伝える文章まで難しくすることはないじゃないか。

内容がつまっているだけに,もったいない。

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においが心を動かす : ヒトは嗅覚の動物である (河出書房新社): 2021|書誌詳細|国立国会図書館サーチ