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ランダムな読書歴と音楽にまつわる備忘録

坂本尚志『バカロレアの哲学:「思考の型」で自ら考え、書く』日本実業出版社

プロローグ

バカロレアの哲学試験は「自由な思考」ができるかどうかを見る試験ではありません。 実際にバカロレア試験が試すのは,「思考の型」がマスターされているかどうかです。

「思考の型」とは,一文で表現される問題を決まった手続きによって分析き,解答を「導入・展開・結論」という三つの部分からなる構成に従って書くという,バカロレア哲学試験で要求される答案作成の方法です。

「思考の型」は,そつした「市民」が身につけているべき,思考し,表現する作法の基礎となるものです。それは哲学という,西洋が歴史的に複雑な思考と範型としてきた知を題材として,自分で考え,表現することのできるる人間を育てることを目指すものです。

第1章 哲学を学ぶフランス人

哲学教育は,以下の五つの能力を育てることが目指されている: 1. 生徒が自分の考えや知識を検討し,その正しさを検証すること 2. よく考えなければ答えられない複数の問題を立てること 3. 一つの問題について複数の視点を比較衡量した後に適切な解答を提出すること 4. 根拠のある主張や知識に基づいた論拠を述べることで,自分が肯定することや否定することを正当化すること 5. 哲学的作品の読者や抜粋の学習によって得られた知識を適切に使用すること

第2章 「思考の型」とは何か?

与えられた問題を批判的に検討し,決められた構成に沿って解答し,議論を補強するために正確な引用を使える――そうした人間を育てること,それが哲学教育の目的であり,バカロレア哲学試験はその達成度を測る試験なのです。

第3章 「思考の型」の全体像

小論文では,問題のテーマを識別し,言葉を暫定的に定義し,細部に注意をした上で,「はい」と「いいえ」で答え,問題から複数の問いを作り出さなければなりません。ここまでが,「問題を分析する」作業です。

第4章 労働、自由、正義ーー何がどのように教えられているのか

この章では,フランスの高校での哲学教育において,労働,自由,正義のようなテーマがどのように扱われているか,その一端を紹介した。

第5章 「思考の型」で哲学する

この章では,バカロレア試験から三つの例題を選び,その解き方を紹介しました。

どの解答も,問題分析を踏まえて作られた「導入」て「展開」「結論」からなる,同じ「型」によって構成されています。

かいとあの内容自体は凡庸かもしれません。とはいえ,バカロレア試験が哲学的独創性を求める試験ではない以上,凡庸であってもいいのです。それ以上に注目すべきは,同一の「型」が異なる問題に対して有効である,ということなのです。

第6章 「思考の型」をさまざまな場面で応用する

エピローグ

反対意見の論理性を踏まえた上で結論へ至るバカロレア哲学試験の小論文の書き方は,自分の考え方を主張するだけでなく,相手の主張にも耳を傾け,その論理を内在的に把握した上で批判するという,仮想の対話の形式をとっています。この対話は弁証法的な構造によって結論へと向かうのですが,こうした議論の組み立て方を繰り返し学び,身につける、ことは,おそらく日本のわれわれにとっても重要であると思われます。

「思考の型」は決して万能ではありません。しかしそれでもなお,そうした「型」を持たないわれわれにとっては学ぶことの多い理念です。完璧ではないものの,非常に有効な理念を,全面的な賞賛でも完全な拒否でもなく吟味し,見習うのべきものは取り入れるという姿勢こそが必要とされます。

国立国会図書館サーチ(NDLサーチ)

130 西洋哲学