Dribs and Drabs

ランダムな読書歴に成り果てた

関山健治『英語のしくみ』白水社

この『英語のしくみ』についても――『日本語のしくみ』と同じく――「よく知ってる言語について改めて読む意味あるのか?」って,読む前には思ってた。けど,読んでみたらなんとまぁ,面白い。新たに知ったこと,理解があやふやだったことが再確認できたことなど,収穫がたくさん。よく知られている言語だからこそ少し突っ込んで書ける,というのもあるんだろうな。

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本書は,中学や高校で英語を一応は学んだが文法はどうも苦手だ,という方を対象に,英語を理解するための大黒柱となるような「しくみ」を厳選した,「英文法お薦めメニュー」です。大学受験用の分厚い文法書や,全世界の学習者を対象にした海外出版社の文法教科書とは異なり,私が大学で教えるなかで感じた。日本人英語学習者が共通して苦手とする点を精選し,類書の受け売りではなく,独自の視点で説明しました。

1章 文字と発音のしくみ

発音記号は,一度マスターすれば,知らない単語でもだいたいの発音が分かるという大きなメリットがありますが,一般の英語辞書に載っている発音記号は,細かな音声変化を無視して簡略化した表記になっています。そのため,あまり過信しすぎると,個人や地域などで異なる実際の音声のバリエーションについていけなくなることもあります。

teamの「イー」は日本語の「イー」とほは同じ音で,唇を機に開いて出す音です。しかし,Timは日本語の「イ」とは違い,むしろ「イ」と「エ」の中間のような音です。日本語の「エ」の口の形で,舌を緊張させないで「イ」と言うとだいたいこの音になります。

2章 書き方と語のしくみ

英語の歴史は,古語期(450年頃〜1100年頃),中英語期(1100年頃~1500年頃),近代英語期(1500年頃~),現代英語期(1900年以降)に分けられます。kind,father,brother など,中学で学ぶ語の多くは,ゲルマン系,すなわち,古英語期から存在する語で,いわば英話のやまとことばと言えます。今の英語に占める割合は少ないですが,母語話者にとっては庶民的で親しみやすいニュアンスがあります。

1066年にノルマンディー公ウィリアムがイングランドに侵攻して以来,ラテン語やフランス語生まれの単語がたくさん英語に入ってきました。すでに存在している「ゲルマン系のやまとことば」に加え,たくさんの「ラテン系の転校生」が英語に押し寄せてきた結果,日本語のやまとことばである「宿屋」と中国から入ってきた「旅館」のように,意味は似ていても綴りが全く違う次のようなペアが生まれました。

kindはゲルマン系,able はラテン系の語です。そのため,名詞の「しっぽ」をつけるときも。kind にはゲルマン系の-nessを,ableにはラテン系の-ityをつける必要があるのです。

なぜ同じ単語なのに,「素晴らしい」と「罰金」という,一見正反対に見える意味を持っているのでしょうか? 歴史的にたどっていくと,fine はもともとは「終わり」という意味であったことが分かります。(…)ここから,「これ以上はない(ぐらいに素晴らしい)」という意味が生まれました。さらには,「(紛争などを)終わりにするもの」という意味が生まれ,そこから「(違反した行為を,裁判等を用いないで終わりにするための)罰金」という意味が生じてきたのです。

(英語でいちばん長い単語)pneumonoultramicroscopicsilicovolcanoconiosis 塵肺症/呪文のようですが,pneumono「肺の」,ultra「超」,microscopic「微小な」,silico「珪素の」,volcano「火山の」,coniosis「塵に関する」と分けると,「微小な珪素の粉末を長期間吸うことで発症する病気」であることが分かります。

3章 文のしくみ

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1章 区別のしくみ

phenomenon「現象」の複数形はどうなるでしょうか? phenomena が正しい形です。同様に,criterion「判断基準」の複数形は criteriaになります。これらの語はギリシア語から比較的新しく「転入」してきたため,「お国訛り」が抜けず,不規則な変化をしているのです。

2章 人と時間のしくみ

現在時制は,「事実形」「現在習慣形」と言ったほうがしっくりくるかもしれません。

英語の進行形は,(…)今,ちょうど何かが行われていることを表しますが,(…)始まりと終わりがはっきりしているので,ずっと永久に続くことではなく,そのうちに終わりになるつかの間のことに対して使われるというニュアンスがあります。一時的なことの真っ最中であるという意味で用いられるからこそ,進行形を使った表現はとても生き生きとしたものになり,マスメディア等でもよく使われます。

ちなみに,某ファーストフードでは, “i'm lovin' it” がキャッチコピーになっており,loveも進行形が使えるのではないかと思うかもしれませんが,多くの英語母語話者には容認されない表現です。だからこそ,キャッチコピーに使うことで意外性や目新しさが感じられ,消費者に与える印象も強くなるのかもしれません。

You must study English harder.英語を一所懸命勉強しなさい。 You have to study English harder. 英語を一所懸命勉強しないとまずいですよ。

must と have to はいずれも「~しなければならない」という意味だと教わった人も多いと思いますが,実際にはニュアンスがかなり違います。上は,話者自らの意志で「命令」している感じです。勉強を全くしない子供を見かねた親が強制的に英語を勉強させるといった意味合いになります。一方。下の文は,自分の意志というよりは,周囲の状況や規則などをふまえて「(気持ちは分かるけど)~しないといけないですよ」 という感じになります。大学の同級生が,必修の英語を落としそうな友人に,このままだと卒業できないよ,というような合意を持たせる場合 です。

You had better see a doctor as soon as possible. すぐに医者に診せなさい。/You should see a doctor if your headache continues. 頭痛が続くなら医者に診せたほうがいいよ。/had better=「~したほうがよい」,should=「~すべきだ」と教わった人も多いと思いますが,実際はむしろ逆で,had better は,急を要する状況での「強い勧告」に近い響きがあります。吐血をするなど,重篤な病気の兆候のある人に,受診を強く勧めるという感じです。私の言ったことをきかなければ,どうなっても知らないよといった「脅迫」「突き放し」の意味が含まれることもあります。一方,should は多くの日本人が思っているほど強い意味はなく,「~したらどうですか」というぐらいの,「柔らかい助言」を表します。mustやhave toのような強制力はありませんし,had better のような「勧告」とも異なりますので,気軽に使える表現です。

willは,「意志」という意味を表す名詞としての働きもあります。(…)一方,be going to は,すでに予定を立てていて,その予定に従って行動する準備ができているという含みがあります。誰かに会うのであれば,いつ,どこで待ち合わせるかなどを相手と打ち合わせているような段階です。そのため,soon「近いうちに」といった漠然とした未来を表す語を be going toと一緒に使うと不自然な文になります。

ある人の意志だけでなく,何か物事が起こるだろうという予測をする際にも willを使います。

皆さんは,未来のことは will か be going to で表す,と教わった人も多いと思いますが,英語では「未来のことかどうか」ではなく,「実現する可能性が高いかどうか」ということが一番大きな基準になります。

I'm leaving for New York tomorrow. 明日ニューヨークに発ちます。/これも「明日」という未来のことを表していますが,海外旅行へ行くわけですから,すでにパスポートや航空券は手もとにあり,荷造りもしていつでも出発できる準備ができているはずです。もっとも,個人の予定ですから,明日急病になればキャンセルせざるをえないでしょうし。空港までの道路が渋滞していれば乗り遅れることも考えられますので,現在形ではなく,現在進行形を使って表します。この場合,「私は明日渡米する心づもりをしていて,それが続いている最中である(ただし,急病になれば中断する可能性もある)」と考え,現在進行形を使っていると考えるとわかりやすいでしょう。

I'm wondering if you can help me with my homework. 宿題を手伝っていただけないでしょうか。/この文は,I wonder if you can help me with my homework. のように,現在形で表現しても問題ありませんが,I'm wondering if…のように進行形を使うことで,「もしお時間があれば宿題を手伝っていただけないでしょうか」というニュアンスになり,より丁寧な言い方になります。進行形は,終わりがはっきりしている一過性のことについて表しますので,「(常に相手に頼るのでなく)ほんのちょっとだけ」という含意が出るため,丁寧な印象を与えるのかもしれません。

過去形は,たとえて言うなら,写真に写った建物を眺めるようなものです。写真ですから,今そのビルが実在していても,いなくても,とにかく過去に実際に起こった出来事であれば使えます。(…)現在完了形は,写真に写った東京タワーではなく,目の前にそびえ立つ東京タワーを見ながら,その歴史や今まで歩んできた過程に思いをはせるようなイメージがあります。

英語は,「(今話している)その場」が,どういう時制(過去形か,現在形か)を使うかの基準になります。(…)日本語では,「今現在」ではなく,「メインの内容が起こったとき」を基準にして時制を決めます。

なぜ丁寧な言い方をするときは仮定法を使うのでしょうか? 仮定法は,先にもふれたように,美現しそうにないことやありえないことを仮定して表現する言い方なので,「お忙しいあなたが私の手伝いに時間を割くことは無理だとは思うのですが」という合意が伝わります。このように言われれば「いえいえ,そんなことはありません。あなたのためになら何とか時間を作りましょう」と快く応じてくれる確率も高くなるでしょう。

後にto不定詞をとる動詞は,「決める」「望む」といった,「これからのこと」を表す,積極的な意味を持つ動詞がほとんどです。toという語は,もともと方向を表しているので,未来志向の意味が出てくるのでしょう.一方,動名詞をとる動詞は,「やめる」「あきらめる」のように,「今やっていることをどうするか」というニュアンスがあります。ing 形が進行中の動作を表すということとも関係があります。

3章 「てにをは」のしくみ

atのイメージは「1つの点」です。「点」ですから,幅がありません。そのため,最初の例文のように,場所について言う場合は,具体的な「地点」とともに使います。また。2つめの文のように,時間について言う場合は,「何時」という時点を表します。最後の文も,「的」という非常に小さな点に狙いを定めているので,atを使います。

inは,皆さんもよく知っている「~の中に」という意味が基本です。言いかえれば,周囲をぐるっと取り囲まれている状態と言えます。

onのイメージは,「何かにくっついている」ということです。

byは,上の文のように「~までに」という期限を表します。一方,until [till]は,下の例のように,「~までずっと」という継続の意味を持ちます。

4章 数のしくみ
5章 実際のしくみ
参考図書ガイド

本書を読み終えた昔さんが,に読むものとしておすすめする入門音参考書を紹介します。

音声学の専門家グループが,学習者向けに英語の発音のしくみを分かりやすく説明しています。

単語に焦点をあてた英語史の入門書です。世界語としての英語を意識した現代英語の説明も充実しています。

従来の学校英文法の枠組みにとらわれず,英語で表現することを第一に考えて編集された最新の英文法書です。動名詞と不定詞,関係代名詞と分詞など,性質が似ているのに従来の文法書では別々に扱われていた項目がまとめて説明されているので,文法のつながりが理解しやすくなっています。

手前味噌で大変恐縮ですが,辞書の情報の読み取り方や使い分け方を練習問題を解く形でレベル別に解説した学習書です。

英語のしくみ 新版 | NDLサーチ | 国立国会図書館