Dribs and Drabs

ランダムな読書歴に成り果てた

クリス・マクマナス『非対称の起源:偶然か、必然か』講談社(ブルーバックス)

図書館で目に入ったので借りて読んでみたけど,想像以上の本だった.

一義的には「人間の体の非対称性(内蔵の位置,脳の左右差,聞き手など)はどうして存在するのか」を解き明かしていく本だけど,そこに「右と左」に関する哲学的・歴史的・文化人類学的な話題がごっそりと入ってくる.とても野心的というか博覧強記な本で,2003年度アヴァンティス科学書賞*1を受賞したというのも,うなずける.

ありがたいことに著者が最後の最後で「要旨」をまとめてくれていて,

大多数の人々はD遺伝子と呼ばれる遺伝子をもっているため,右利きである.この同じ遺伝子は,私たちの大半が言語中枢を脳の左半球に持っていることを意味する.このD遺伝子が,おそらく三〇〇万~二〇〇万年前,人類とその他の類人猿とを分けた主な要素なのだ.右利きの人の言語と運動をコントロールするのは左半球だが,これはD遺伝子が,おそらくは人間その他の脊椎動物の心臓を左に位置させる「位置遺伝子」の突然変異だからだと思われる.

そして,

脊椎動物とその祖先の体は,もう五億五〇〇〇万年もまえから非対称なのだ.その位置遺伝子が私達の心臓を左に位置させるのは,胎児の成長の初期,結節部の繊毛が成長決定子を含んだ流れを,左回りではなく右回りに運ぶからである.繊毛が右回りに動くのは,それが主にL-アミノ酸(その鏡像のD-アミノ酸ではなく)からなっているためだ.地上のほとんど全部の生物体はL-アミノ酸からなっているが,これはただの偶然によるものではない.深宇宙から飛んできた隕石のアミノ酸も,同じ傾向を示しているのを見ればそれは明らかである.

さらに,

初期の生命がL-アミノ酸のみを含むように進化してきたのは,少なくとも地球上で生命が進化した地域では,L-アミノ酸が最も豊富な形だったからで,それはおそらく隕石から来たものと思われる.L-アミノ酸の優勢はまた,物理学者が「パリティ保存則の敗れ」と呼ぶ原子未満レベルの弱い相互作用の非対称性に現れる現象に,由来するものかもしれない.

とのこと.

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