Dribs and Drabs

ランダムな読書歴に成り果てた

ダグラス・R・ホフスタッター『ゲーデル,エッシャー,バッハ:あるいは不思議の環』白揚社

30年近くぶりに読み返してみて,この本は「同型対応」と「自己言及/作用」について書いた本なんだなぁと自分なりに思った.その中心はゲーデル(の不完全性定理)であり,そのロジックの類似型,あるいはそのロジックのアナロジー(あるいは直感的に理解させるものとして)エッシャーやバッハが援用されるわけだけど,そのアイデアの萌芽は著者が「感謝の言葉」で述べているように,

いつだったかまだ幼い頃,三の三倍という思いつきが,とてもおもしろかったことを覚えている.三にそれ自身が作用するのである!

というところにあるんだろうな.自身に作用する数字.自身に言及する言葉.自身を描く絵.自身(主題)を再生産する音楽(カノン).自身を再生産するタンパク質.自身を意識する脳.等々.それら同型対応は緩い対応だったり比較的固い対応だったりするけれど,そこに神秘的なものを感じずにはいられない.

……神秘的,というか,ともするとペンローズみたいな感じ(プラトン的世界と物質的世界と数学的世界と)になって,逆に陳腐な印象を与える危険性がなくもないのだけど……

いずれにしろあれだ,この本を楽しむためには,ゲーデルの不完全性定理(とその証明の論理的構造)をしっかりと理解しておいた方がいいんだと思う。

なお,ホフスタッターは,この『ゲーデル,エッシャー,バッハ』をどんな人たちに読んでもらいたいかという質問に,「わたしが十五歳の頃に興味を持っていたような事柄に関心のある,十五歳の頭のいい連中」と答えてる。因にプリンストンに育った彼が,ゲーデルの名を知ったのが十五歳,サミュエル・ベケットの『ゴドーを待ちながら』を読んだのが十五歳のときのことだったという。

なるほどね……。たしかに15歳なら「こんな本読んで何の仕事の役に立つんだ」とか考えないもんなぁ……。ハッタリとかコケオドシとかがきく年齢でもあるし,逆に摩訶不思議なものをそのまま受け止める(受け止めようとする,受け止めようとしているフリをする)ことができるもんなぁ。

410.1