昔々,BRUTUSのムックか何かで「ジョギングで痩せる」みたいなやつがあって,それはつまり
- 摂取エネルギーより消費エネルギーが多ければ痩せる
- 運動すれば消費エネルギーが増やせる
- だからジョギングすれば痩せる
というロジックに基づいた内容だった。
それは今の世の中だいたいみんな同じように考えていると思うんだけど,この本によるとこの中の「2」が違うんだと! つまり,人間が1日に消費するエネルギーってだいたい決まっていて,それは運動してもしなくてもほとんど変わらない(体が勝手に調節するし,人間の体ってそういうふうに進化してきたから),だから「運動すれば痩せる」っていうのは幻想だけれど,一方で「とはいっても運動するのは健康にいいからみんなやろうね」という話。実に面白い。
っていうか,そんなことパワーズの本にも書いてなかった! いや,本書で「運動は減量には効果ないけど減量後にその体重を維持するのには意味があるって」言ってて,パワーズの本でも「体重を大きく減らし,減量後もその体重を維持するためには,中強度の身体活動を週あたり250分間行うことが推奨される。」とは書かれていたけどさ。
あと面白かったのはマイケル・フェルプスの話で,もちろん練習によるスキルとかあるだろうけど,きっと彼は1日に接種できるエネルギーの量が普通の人より多い(だから毎日他の人より練習量をこなしながら体力を維持できる)んだろうと,ポンツァーは言ってる。
たしか↓この本だったと思うけれど,オリンピックで勝てる勝てないって生まれ持っての身体能力が大きくモノを言う競技もあるっていうことで,その〈身体能力〉には消化器官の能力も含まれているのだとしたら,なんとも面白い話だ。
関係ないけど,上記の「1」に疑問を呈した↓この本はなんだったんだ。
最後に。ポンツァーはアナロジーがとても上手。随所でくすりと笑わされた。
第1章 ヒトと類人猿の代謝の定説が覆った
500万年にわたる進化によってヒトの代謝エンジンは驚くほどダイナミックで適応性の高いものになった。人体は運動や食事の変化に巧みに反応できる。それは,引き締まった体と健康を保とうとする私たちの努力を無駄にするようなものかもしれないが,進化という点からは筋が通っている。この結果,運動量を増やしたからといって1日に燃えるエネルギーの量が必ずしも増えるわけではなく,エネルギーをたくさん燃やしたからといって,脂肪がつかないわけではない。
私たちが生きていくうえで代謝がいかに大きな働きをしているかを知っておく必要がある。/地球のプレートのように,代謝はすべての根底にある目に見えない基盤であり,ゆっくりと変化しながら私たちの人生を形作っている。
オランウータンの1日のエネルギー消費量は2050キロカロリー――ヒトでいうと,体重が65ポンド(約30キロ)の9歳の少年と同じだ。メスのオランウータンはさらに消費量が少なく,体重120ポンド(約55キロ)で1600キロカロリー。同じ体重のヒトに比べ30%ほど少ない。
霊長類は他の有胎盤哺乳動物の半分のエネルギーしか消費していない。
アイエロとウィーラーは計算の結果,ヒトは肝臓と消化管を小さくすることによって節約したエネルギーで,脳の大型化に伴い必要になったエネルギーを完全にまなかっていることを突き止めた。
第2章 代謝とはいったい何か
人体であれ,車であれ,スマートフォンであれ,消費されたエネルギーは常に,そのエネルギーを使ってなされた仕事と発生した熱の和に等しいのだ。
「代謝」と「エネルギー消費」は同じ意味で使うことができる。
グリセミック指数の低い食品が体にいいという証拠がいくつか示されている。
私たちが食物からとった繊維は腸壁を濡れた毛糸のブランケットのように覆って格子状のフィルターとなり,糖類や他の栄養素が血流に入り込むのを遅らせる。オレンジジュースのグリセミック指数――糖類よ血中への流入度合い――がオレンジより25%ほど高いのはこのためである。オレンジには食物繊維が含まれているが,ジュースにはあまり含まれていないのだ。
グリコーゲンは植物に含まれるでんぷんに似た複合組織だ。エネルギーが必要になったらここから簡単にとり出せるが,炭素と微塵もが同じ割合で含まれているので(ここから「炭水化物」という言葉が生まれた),比較的重い。缶入りのスープのようなものだ。手間いらずだが,水が入っているので重くかさばる。
だれもがよく承知しているように,人体の脂肪の貯蔵量に事実上,上限はない。
脂肪の分解は難しいという問題がある。これは,よう知られている化学の基本,油と水は混じらないという事実に起因している。脂肪の塊を水だけで微差に分解するのは不可能/進化によってそれはどう解決されたのか? 答えは胆汁だった。
すべての動物が脂肪という形でエネルギーを蓄えるように進化したのは,わずか1オンス(約30グラム)の脂肪に255キロカロリーという,信じられないほどのエネルギーを詰め込むことができるからだ。これはジェット燃料と同じくらいで,ニトログリセリンのエネルギー密度の5倍以上,一般的なアルカリ電池の100倍近い数字だ。
私たちは1日に50グラムのタンパク質を尿という形で排出している。運動すると筋肉の壊れる量が増えるので,排出量も増える。
飢餓状態では,タンパク質がきんきゅのエネルギー源となる。これは,家を暖めるために家具を燃やしているようなものだ。
ケトン体は血流の流れに乗るので,尿中に出る。好奇心旺盛な人,暇な人は,ケトン体の尿検査用試験紙を買ってみるといい。尿にケトン体が含まれていたら,それは,体が「ケトン生成」をし,脂肪が大きなエネルギーになっているというサインである。
酸素は破壊神シヴァのようなもので,触れたものをすべて徐々に壊したり(錆びさせる),勢いよく壊したり(燃やす)するのだ。
第3章 カロリー消費量研究に起きた革命
種の生理機能が進化によってどのようにつくられてきたのか理解したい? 厳しい状況におかれたとき,生理的機能のどれが優先され,どれが後回しにされるのか知りたい? それならば,カロリーを追えばよい。
エネルギー消費量は代謝当量(METs,メッツ)で表されることも多い。1メッツは,1時間に体重1キロ当たり1キロカロリーのエネルギーを消費する状態と定義され,安静時のカロリー消費量にほぼ等しい。
私たちは歩くときのエネルギーコストの変化にとても敏感に反応するよう進化さてきた。だれかをトレッドミルにのせて,ゆっくりとスピードを上げる。すると,歩いていた人は,コスト面で有利になるぎりぎりのスピードで自然に走り始める。
ナイキのヴェイパーフライは(…)ランニング中のカロリー消費量を4%ほど減らすとうたっている。(…)しかし,体重150ポンド(約68キロ)のアスリートにとって,4%は1マイルあたり4キロカロリーの減少にすぎない。(…)太りすぎのアメリカ人なら,体重を数ポンド落とすほうが,ランニング(そして,それ以外のすべて)のエネルギーコストを下げるうえではるかに有効だろう。体重を1%減量すると,1マイル当たりのカロリー消費量もほぼ1%減る。
年齢を重ねると代謝が落ちていると感じるようになるが,その大きな理由はここにある。中年を過ぎると筋肉が脂肪に変わる傾向があるのだ。
思考のコストは信じられないほど低いのに,学習には多くのエネルギーが必要となる。/3〜7歳児の脳はBMRの60%以上を占めている。これは成人の3倍にあたる数値で,この重要な幼年時代には多くのエネルギーが脳で使われるために,体の他の部分の成長は遅くなる。
結論をいうなら,1日の活動レベルは1日の消費カロリーとほとんど関係ないのである。
スーパーのレジではカゴに入れた商品の値段が一つ一つ足されていくが,代謝ではカロリー消費量の構成要素――身体活動,免疫機能,成長など――が動的かつ複雑に相互作用し,影響を及ぼし合っている。1日の消費カロリーは構成要素を単に足し算しただけでは算出できないのだ。
第4章 親切で,的創生に富み,太ったサル
類人猿は,非常に脂肪が少ないのだ。/チンパンジーとボノボの体脂肪率は飼育下でも10%以下で,訓練中の一流アスリートと変わらない。
私たちの代謝エンジンは,身体活動が活発化してコストが増加すると,なんとかやりくりしてそのための余地をつくりだし,最終的には1日のカロリー消費量が一定の狭い範囲内におさまるようにしている。その結果,体をよく動かす人(…)も,体をほとんど動かさない人と同じ量のエネルギーを燃焼することになった。
第5章 運動しても痩せないのはなぜか
1日のカロリー消費量がほぼ一定ということは,運動などで1日の身体活動量を増やしても,1日のカロリー消費量にはほとんど影響を及ぼさないということである。
1日のカロリー消費量が制限されていることは広く確認されており,そうであるなら,それを運動によって意味のある形で変化させるのは極めて難しい。どれほど運動に励もうと消費カロリーを意味があるほど変化させることが本当に難しいのなら,カロリーと摂取量を重視して肥満と闘うほうがいい。
運動さると健康で生き生きとした生活を送ることができる。だが,減量にはあまり役立たない。
肥満の原因を代謝の低さに求めると,体重変化の原因と結果がまったく逆になってしまう。代謝はエネルギーバランスを決定しているのではなく,エネルギーバランスに反応しているのだ。
第6章 ダイエット論争にデータを突きつける
自分の知識を過大評価して自信たっぷりに説明するおとを,科学用語でダニング・クルーガー効果という。1999年にコーネル大学の心理学者デイヴィッド・ダニングとジャスティン・クルーガーがすばらしい仮説を立てたをそれは,能力が低い人は,能力が低いために自分の能力の低さに気づかない,というもので,能力の低い人がなぜ厄介なのか,これによって説明できそうだった。
すべての食事法が摂取カロリーの抑制で効果を上げるなら,どうして続けやすいものとそうでないものとがあるのだろう。そして,現代社会に広がる病気と元凶ぁ糖質でないのなら,何が原因で今日のような状況が生じているのだろう。/その答えは私たちの脳にあるようだ。
おいしい食べ物――一般的には,脂肪,炭水化物,塩を組み合わせたもの――は,報酬系を交響楽団のように反応させ,脳がドーパミンのような報酬系ホルモンでいっぱいになって,私たちに快感を覚えさせる。
食べ物の種類が多いと肥満になりやすいことは数十年前からわかっていた。
体重を管理し代謝をうまく機能させるには,栄養価が高く,満腹感が得られ,しかもカロリーの高くない食品を中心にした食事をとるのがいいだろう。/ポイントは,タンパク質,食物繊維,エネルギー密度である。
第7章 ヒトの体は運動を必要としている
ヒトといちばん近い関係にあるチンパンジーぁ,体を動かさないのに健康を保っている。このことからわかるのは,運動は水や酸素とは違って,すべての動物にとって生きるために必須の要素というわけではないおいうことである。運動を必要とするヒトが特異なのだ。
運動が有益である大きな理由の1つは,運動に対する代謝反応――1日の消費カロリーを一定に保つための無数のトレードオフや適応――にある。
定期的な運動は慢性炎症の抑制に効果的であることが数十年前からわかっている。/1日のカロリーの多くぁ運動で消費されると,体は残りのカロリーを倹約して使わなければならない。炎症反応も,常に警報を発するのではなく本当の敵に狙いを定めるようになれば,免疫系の不用な活動に使うカロリーを減らすことができる。
カロリーの高い,脂肪たっぷりのものを食べ過ぎるお視床下部に炎症が生じる。すると,空腹,満腹を知らせる信号の調整がうまくいかなくなり,体重が増える。
運動は減量を達成する役には立たないが,減量後の体重を維持するには有効なようである。
第8章 ヒトの持久力の限界はどこにあるのか
限界に達するおは燃料切れのためだけでない。脳は体から送られてくる信号――筋肉を使うことで生じる代謝産物,体温,本人が感じている難易度,予想される残りの仕事量――をすべてまとめ,その情報に基づいて私たちがどれだけがんばれるかを決めているようだ。
マラソンが刺激的なのは,ランナーがレースの間中,最大酸素摂取量を越えないようにしながら,ぎりぎりのところを走っているからだ。
妊娠中の母親は,ツール・ド・フランスの選手と同じように自分を代謝の限界まで追い込んでいる。妊娠は究極のウルトラマラソンだ。
(1日で摂取可能な)カロリー摂取量は自身のBMRの約2.5倍(…)これをカロリーに置き換えると,競技の種目や状況にかかわらず,体が1日に吸収できるカロリーは最大4000〜5000キロカロリー。消費がそれを超えると負のエネルギーバランスとなり,1日に補充できる以上の脂肪やグリコーゲンを燃やして徐々に痩せていく。
(胎内にいる)赤ん坊がうんと大きくなると,母親は2人分のカロリーを十分にとれなくなるはずだ。母親が代謝の上限に近づくと代謝ストレスの信号が送られ,出産の引き金になるのだと私たちは考えている。
さらに求められるのは,おそらく,プールで燃料切れになったりしないようカロリーを本当にうまく吸収する消化管だ。フェルプスやレデッキー,そして現代のオリンピックで活躍する超一流アスリートは,そのすばらしい実力だけでなく,すぐれた消化管でも他を圧倒しているのだろう。
私たちは,羽は飛ぶためのものと考えているが,初期の鳥類はそれを断熱のために役立てていた。
第9章 エネルギー消費とヒトの過去・現在・未来
運動しても瘦せないのはなぜか : 代謝の最新科学が示す「それでも運動すべき理由」 | NDLサーチ | 国立国会図書館
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