Dribs and Drabs

ランダムな読書歴に成り果てた

谷本道哉 編著・石井直方 監修『スポーツ科学の教科書:強くなる・うまくなる近道』岩波書店(岩波ジュニア新書)

コンパクトでありながら,そしてジュニア新書でありながら,中身の詰まった本であった。内容は運動生理学・解剖機能学・スポーツバイオメカニクス・トレーニング科学・スポーツ栄養学・運動と健康の科学と,〈スポーツ科学の教科書〉を謳うだけある十分なカバレッジ。

内容も〈痒いところに手が届く〉というか,基本的な内容を平易に解説しつつも,興味深いトピックを盛り込んでる。

  • 〈無酸素運動〉だからといって酸素を使わない運動ではないので,呼吸はしっかり行なわなければパフォーマンスが低下する
  • スポーツ選手だからといって左右差がないほうがいいとは限らない(ウサイン・ボルトも左右のストライド差が30cmほどある)
  • 「バネのある動き」と呼ばれるものは,腱の持つ弾性を巧みに利用した動きのこと
  • 野球の投球動作では腕の発揮する運動エネルギーの2/3割り程度が脚,体幹か伝えられたエネルギーによるもの(金田正一は「ボールは足で投げるんや」と言った)
  • 投げる・打つといった動作では腰の回転が重用で,それは脚の力で行われる(このうち「踏み込み脚の内股の締め」は見落とされがち)
  • 投球動作では「腕は振らずに内側にひねる」(体幹が回っているので空間的に腕が大きく振られているように見えるだけ)
  • 肩の内旋は,動作速度・動作範囲,発揮トルク(関節動作にかかる力)ともに大きい
  • 逆向きの動きの「反作用」で目的の動作を強くすることができる(たとえばサッカーで腕を引くことで蹴り脚が走る)
  • 筋トレのフォームが実動作とかけ離れているのは,筋トレの種目はいずれも「安定した姿勢で大きな負荷を筋肉にかけられ」「関節等に無理な負担がかかりにくい安全な」フォームで行なうことで,筋肥大・筋力増強を目的としているから
  • 実動作に負荷をかけるようなトレーニングには問題がある。動きが不安定で筋肉に大きな力をかけにくく,筋肥大・筋力増強の効果が小さくなるばかりか,関節に無理な負担がかかりやすいから――「筋トレには筋トレの目的のためのフォームがある」
  • 〈マッスルメモリー〉の原因のひとつは,筋繊維の核はいちど増えたらそのご不活動で筋肉が収縮してもほとんど減少しないこと
  • 飲料の水分の吸収は飲料の濃度の浸透圧が低いほど速く,浸透圧が高いほど遅くなるがエネルギー補給には優れる。という意味で,水分補給とエネルギー補給とはトレードオフの関係にあるから,状況に応じて濃度を調節するとよい
  • コーラ自体は一般にイメージされているほどのマイナス要素はない。練習後のエネルギー補給のドリンクとしてはむしろ効果的とさえいえる

780.1 : スポーツ.体育

スポーツ科学の教科書 : 強くなる・うまくなる近道 (岩波書店): 2011|書誌詳細|国立国会図書館サーチ